水道検針日記(199Z年7月21日)~豪雨~検針日記はこれで終了

今朝、9時ちょっと前に電話が鳴った。こんな時間にかかってくるのは、多分仕事関係だろうと思ったら、やっぱり会社からだった。検針員の一人が熱で休んだから、その分の応援をやってほしいというものだった。

僕は、そのときまだ半分以上頭は眠っていたのだが、今後、僕も休むことがあるだろうから、ここで応援をやって「貸し」を作っておいた方がいいだろうと政治的判断をして受けることにした。今日の定期の件数は240件ぐらい。それに100件足すと、340件で、面倒だけどできない数では全然ない。

ところで今日は当地はすごく暑かったね。最高気温が33℃までいったらしい。曇りがちだったから直射日光を浴びずに済んだのが救いか。B町2丁目辺りでは、70過ぎぐらいのじいさんから、缶入りカルピスをもらって、「今日は暑いけどがんばれよ。体に気をつけろよ」と励まされた。どうも。

彼が言うには、水道管の取り替え工事をするに当たって水道局から「非常に丁寧な告知の電話」をもらったらしい。これは東芝問題の影響だろうか。

今日は応援が入ったので、合計3冊ノルマがある。1冊目は12時で終了して、2冊目は2時半。それから応援の現場へ。そこはK町の、僕が明日検針する現場の隣の区画だった。隣の区画だから、雰囲気は変わらないし、検針自体には慣れてるからある程度、カンが働くものの、それでもメーターの位置などのクセが一件一件違うから、場所を探すだけで手間がかかる。

ここら辺は、安いアパートがチラホラあって、イメージとしては下町の風情がある。一歩間違えば東南アジアのスラムに見えないこともないけど。

検針を進めていて、全100件中の40件目辺りになる頃に、暗雲が立ち込めてきて、不穏に雷がゴロゴロと鳴り始めた。雲の黒さと腹に響く雷の音からすると、間もなくかなりの強さの雨が降るのが予想された。早めに終わらせようと焦って動くものの、しかしメーターがなかなか見つからない。

3時半頃には、日没前かと思わせるほどの薄暗さだった。それで80件目辺りまで来た頃についに来た。あっという間にシャワーを全開に開いたかのような凄まじい雨が40分ぐらい降り続いた。雷がドカンドカンと落ちまくって、雨宿で座っていたアパートの階段でも揺れがはっきりわかった。

会社に戻って同僚に聞いたところでは、検針棒を地面に振れていたら、ビリビリッと電気が来たそうだ。恐ろしい。

雨はなかなか止まないが、カッパを持ってこなかったし、あまりにすごい雨だったので検針できる状況ではなかった。(後から聞いたところでは、ロックンローラーのジョニーはあの雨の中で検針してたらしい。)それからようやく雨が小ぶりになったところで残りを済ませて、帰社。一旦、雨脚が弱まったので、これで夕立も終わったと思ったら大間違いで、それからもまた降り始め、帰り道でびしょ濡れ、パンツまで濡れた。

あ-、応援なんかやらなきゃこんなことにならなかったのになぁ。これからは朝方の電話には注意しよう。

 

★水道検針日記はこれで終了です。

水道検針日記(199Z年7月19日)~検針員に向けられる敵意

今月初めての検針日記だ。つい先日までは、じとじとと、時にはスコールのような激しい雨が降る梅雨らしい日々が続いていた。もちろん雨はイヤなんだけど、30℃を越える蒸し暑い方が体力的にはこたえるので、今日のように比較的湿度が低くて風が涼しい日は嬉しい。

僕は夏がちょっと苦手なものだから、毎年、「夏が早く過ぎるといいなぁ」と思っている。ところで、明日あたりから小中高校生は夏休みらしい。特に小学生の頃なんて、僕は夏休みが大好きで(誰だってそうだ)、8月末までの40日間の休みがひどく長く思えたものだけど、大人になった今は9月なんてすぐそこに思える。

中学や高校生の頃は、毎日のように休み中に部活があったし、それがなくても3年生の頃は受験勉強しなければならなかったから、よくよく考えれば夏休みが純粋に好きだったのは、(少なくとも僕の場合は)小学生の頃だけだったのか。あー、そういえば大学の頃にも夏休みがあったなぁ。そういえば。すっかり忘れてた。あんまり授業に出てなかったからねぇ。ほぼ全く学校に行かなかった年もあったし、バイトもやってたし。あんまり今と変わらないなぁ。

今月の仕事は今週いっぱいでほぼ終了なんだなぁ。休みが8日間もあるなー。どうしようかなー。

さて、今日の現場はN町とK町。N町の方は団地(平屋と3階建て)だったので、110件を1時間ほどで終了。それから前日の再調査をやって、K町南口の大衆中華料理店「**」で炒飯を食べ(待っている間に報知新聞と朝日新聞を読む)、それからK町の検針へ。

ここの冊には、3月に、僕のためにエロ本をメーターボックスの上に置いてくれた(仮説1)ばあさんと、昔、**省に勤めていた、毎回必ず石鹸をくれるばあさんがいるところだ。

エロ本ばあさんの家は、以前は、毎回門を開けてもらって、「おしらせ」と引き換えのような感じでタバコをくれていたのだが、この頃は、いつも門にカギがかかってない。元々、僕はタバコは吸わないから、そんなもんいらないと言えばいらないものの、なんとなく寂しいねぇ。

それに引き替え、**省に務めていたばあさんの家では、今日も「**さん、せっけんあります。玄関に寄ってください」というメモがメーター横の椿の木に紐でくくりつけてあった。ここまでされると気がつかないフリはできないね。

縁側あたりから僕の姿が見えたらしく、僕が玄関に行く前にばあさんが出てきた。「あー、**さんすいませんねえ。今日はせっけんが一個しかないのよ」といきなり彼女は石鹸の話をする。誰かに喜ばれるのが嬉しいんだな。

それで話を聞いて驚いたことに、彼女が毎回僕にくれる他に、アパートの店子の女子大生にもあげている石鹸は、全部とは言わないまでも、そのいくらかは化粧品店で、買物をしたおまけにもらっているものらしい。あの店ではけっこうたくさんの物を買うから、その位のサービスは当たり前、ということらしい。

ということは、ばあさんは84才にして化粧品関係をそんなにたくさん買っているのか……。そういえば、口元にはしっかりと口紅が塗られている。もしかしたら頬にはファンデーションか何か塗っているのかもしれない。ばあさんは、84にしては同年代の人と比べて皺が少なくて化粧をしてもそれほど異様ではないだろう。

モンペみたいなズボンをはいて、腰が少し曲がって、脚もかなり悪いみたいだけれど。それにしても、80も過ぎていまだに化粧品をし続けるとはすごいなぁ。話はかなりくどいし、対話というよりは話は一方的になりがちだけど、気だけはまだ若いみたいだ。

検針が終わってから、再び昨日の再調査に行った。未検針の家と入居手続きがまだの家が残っていたからだ。会社に戻るのにちょっと遠回りするだけだし。未検針の家は、老女が入院してしまっていて、門のカギを隣の人に開けてもらう必要があった。

その隣の家の人が在宅で、ようやく検針できた。入居調査の家はアパートで、一応、メーターもチェックして、アパートの前で数値を用紙に書きつけていたら、物音を聞きつけてきたらしい60ぐらいのおばさんが出て来て、「あなた何なんですか」と聞かれた。それで僕は「水道検針です」と答えた。

「水道メーターなら、そこにあるでしょう」とおばさん。「ああ、もう見ましたから」「それで、なんかまだ用なの?」「105号室の方が開始手続きがまだなんでぇ……」。要するに僕が言いたいのは、水道検針をしていると、時々、露骨な敵意というか、警戒を受けることがあるということだ。ほんの時たまムカつくことあるなぁ。警戒する側の気持ちもわかるけどなぁ。検針業務一般が人々にあまり知られていないということも大きいんだな。これは僕が、あんまり(いや、全然か)爽やかなタイプの検針員じゃないからだろうか。同僚の荒川氏(仮名)みたいな人当たりがソフトな人や女性の検針員ならどうなんだろうか。聞いてみたいところだ。

会社に戻ったのが3時頃で、軽い雑務を終えて、今日はそれからK町に行った。友達のTちゃんが絵の個展を一日だけやるというのだ。

K町南口駅前の噴水が勢いよく水を噴き上げていた。「あぁ、この噴水や駅前のサクラ銀行や大きな喫茶店なんかも俺が検針やってんだよなぁ」と思うと、なんだか社会にスゴイ貢献をしているような気がした。

水道検針日記(199Z年6月25日)~メーターボックスの中のカエル

今日は一日小雨が降ったり止んだりの梅雨らしい天候だった。あまり蒸し暑くないのが救いか。でも、今月の検針は昨日で終了したので、今日はミーティングと昨日の検針分の再調査だけだった。

ミーティングは10時半開始なので、10時20分過ぎに会社に着いた。検針員は、4時半までに帰ってこれれば何時に出社してもOKだから、基本的にみんな出勤時間はバラバラで、僕なんかも一日のノルマの件数によって早く来たり、遅く来たりと毎日のように時間が違う。

それが、今日のような全員出席するミーティングがある日は、駅から事務所に着くまでの間に同僚の姿を何人も見掛けたり、ロッカールームで一緒に作業着に着替えたりと、妙に新鮮に感じることが多かった。

ミーティングの後、小雨が降る中、再調査へ。現場が遠いので帰ってくるまでにけっこう時間がかかった。途中で雨が強くなって帰りはカッパを着た。昨日の検針時、ある一戸建ての、比較的庭が広めの家のメーターボックスの中にカエルを発見した。

こういう狭い空間の中にどういうわけかカエルが住んでいるのを時々見つけることがある。そもそもどうやってメーターボックスの中にカエルが入ったのかよくわからない。メーターボックスの蓋はいつも閉まっているし、隙間はほとんどなきに等しいしなぁ。

そのカエルは二ヵ月前の四月にも目撃していた。そのときは、まだちょっと肌寒い日もあるので、冬眠の途中だろうというとで、そのままにしておいたのだが、もう時はすでに六月だ。カエルが一生こんな暗くて狭い空間にいていいわけない、カエルたるもの、屋外で雨に打たれ、虫を捕まえ、声高らかに鳴くのが本来の姿であろうと、今回はボックスの中にいるのを手で掴んでそとに出した。

驚いたことに、カエルは小犬みたいな声で「クーン」と鳴いた。カエルが哺乳類みたいな声をだすのを初めて聞いた。突然、広い空間に投げ出されて戸惑ったのか、ブロック塀に攀じ登ろうとしては全身を伸ばしてひっくり返ったりしていた。その姿を見て、このカエルはこのまま、外界で生きていけるのだろうか、と考え込んでしまったが、メーターボックスの中でひからびて死んでしまうのも……と思って地上にそのまま残してきた。あれでよかったのかな。

水道検針日記(199Z年6月17日)~マンション管理人

一ヵ月ぶりの検針日記か。まだ6月だというのに、ここ数日は真夏日が続いている。今日、**地方の最高気温は30度を越えたらしい。夜になると涼しくなるので、それが真夏との違いか。

それにしても、まだ夏の気候に慣れていないのか、検針に時間がかかる。冬だったらいくら早歩きでも平気なんだけど、夏はだめだ。同じ時間に出勤しても、冬や秋より夏は帰社時間が遅い。

缶ジュースを何本も飲んで、公園で顔を洗ったりしないと、とても夏の検針はできない。ここのところ、暑いせいもあって、ここ一週間で2回も同僚と飲みに行った。生ビール(多分、発泡酒だろうとのこと)が7時まで50円のところがあるので、みんな喜んで行く。

実を言うと、同僚と飲みに行くのはそんなに頻繁にあることではなくて、せいぜいここ数ヵ月のことだ。一人飲み会好きで音頭を取る人が出てくると状況は、かなり変わる。その飲み会の席で、日頃、会社の事務所で軽く話すだけでは知ることができなかった個々の歴史や、検針での出来事なんかを聞けてすごく面白かった。

みんないろんなことがあるんだなぁ。それに大垣くん(仮名)を、彼が好きらしい女の子をネタにからかって楽しかった。

今日の現場はW町とK町。合計340件ぐらい。検針の前に火曜日に検針した分の再調査をした。(水曜は休みだった。)火曜日は、いつもダンボールを積載している家で荷物をどこかしてたら、おばさんが冷たいお茶とスイカをくれた。スイカは今年初めてだ。うまかった。

今日の再調査で心配だったのがオートロックのマンションだ。そのうち一つは、業者が掃除中だったので簡単に入れて、もう一つも管理人さんが毎日の日課で掃除をしている最中だったので、快く入れてもらえた。ここの管理人さんには、初めの頃は胡散臭そうな目で見られたものだが、今年に入って頃からなんとなく好意的に迎えられるようになった。何事も信頼を勝ち取るには時間がかかるものなのだ。

火曜日の検針のときには、僕はメーターを見ながら、管理人さんは廊下を掃きながら世間話をした。「あんたんとこはボーナスがたくさん出ていいねー」(水道局と誤解されているみたい。水道局の下受け会社の契約社員みたいなもんなんだからボーナスなんて無きに等しい。)とか「最近、ここいらで泥棒が入ったらしいよ。この頃の泥棒は家財道具はかさばるから手をつけないで、カード類ばかり狙うみたいだねぇ」とかそんな話に「へー、そうなんですか。景気が悪いせいですかねー」などと適当な相づちを打って話を合わせた。

そこの管理人さんはトーク好きな人なのだ。管理人さんにはいろいろ便宜を図ってもらう必要もあるので、愛想を良くしておかねばならない。ところで、こうやって、あんまり興味がない話題でも「へー」とか「はぁ」とか「そうなんですかー」などと言って世間話をしている自分に検針員として、また大人としての成長を感じたなぁ。

それで今日は「火曜日の分の再調査に来ましたー。オートロックお願いできますか?」と玄関から10mぐらい離れた場所にいるニコやかに挨拶をした。「ああー、いいよー」と言いつつ管理人さんはポケットの中のカギを探った。

それで僕は15秒ぐらいドアの前で待ってたんだけど、来ないからどうしたのかと思って外を見たら、明らかに買い物帰りの、二十歳ぐらいでノースリーブのワンピースを着た女の子がコンビニの袋を持って歩いていて、管理人さんが、その後姿を口を開けてじーっと見詰めていた。それで僕と視線が合うと、ちょっと気まずそうに「あ、いや、あの女の人がさぁ、あそこにゴミを捨てるんじゃないかって思ってさぁ。いるんだよ、今ごろの時間になって捨てる奴が。本当になぁ、困るんだよ」と妙に言い分けがましく言った。それで「えー、本当は女の子のお尻見てたんじゃないですかあ?」と僕が突っ込むと「そんなんじゃないよ。違うよっ」と半分本気で照れていておかしかった。

W町の検針を終えた後、K町へ。昼休みは友人が住むシェアハウスでとった。そういえば、最近シェアハウスには行っていない。久しぶりのシェアハウスは、庭の戸が開け放たれていて涼しかった。

そういえば、今日みたいな日の去年の8月、友人Pがここでフルチンで寝てたのを思い出した。おにぎりを食べているうちに、今日は仕事が休みだという住民のAちゃんが起き出して、カップルになったPの醜悪な所業とか一日12時間労働するも生活は必ずしも楽とはいえないAちゃんの苦境の話などを聞いた。面白かった。

Aちゃんと30分近く話をしてしまったので、急いで検針を進めた。途中のボロアパートで70代の髪を黒く染めたばあちゃんからアイスネスカフェをもらった。甘くて特にうまいわけではないが、気持ちが嬉しいね。

水道検針日記(199Z年5月14日)~吠える犬の撃退法

今月初めての検針日記だ。実を言うと、もうこの日記はこの辺りで終了しようかと思っていたのだが、山下達郎の "cozy" を聴きながら本多勝一原作「本多勝一の こんなものを食べてきた!」(『週刊金曜日』に連載されている漫画の単行本)を読んでいるうちに、またなんとなく書きたくなった。

今日になって、明日サッカーの試合ができることになったというのも心理的要因として大きいかもしれない。明日は朝の9時から13時まで4時間、3チームで試合をやる。嬉しいなぁ。サッカーのためなら、休みの日だって朝早く起きちゃうよ。

この検針日記を終了しようと思ったのは、すでに書きたいことは全部書き尽くしているのが最大の原因である。なんだか飽きちゃったんだよね。これからも無数の小さなエピソードは生まれることだろうけど、結局、今まで書いてきたのと同じことの繰り返しだもんなぁ。これからは、もっと他のものを書きたいという感じかな。そういうわけで、この検針はいつ終了するかわかりません。

また、終了しないまでも、更新の間隔がかなり空いてしまうと思います。もうほとんど終わったものと考えてもらってOKです。そういえば、香港・中国・マカオ旅行記は全然書いてない。今日、資料として藤原新也の「全東洋街道(下)」を買ってきた。藤原新也の「アメリカ」を数年ぶりに読み返していて、これもいいなぁ。

ところで、もう5月ですね。月の半ばになって今更何を言っているのかですが、もう気温が25℃の夏日になったりしてけっこう蒸し暑いですね。毎年5月ってこんなだっけかなと思って、去年5月の検針日記を読み返したらやはり同じようなものだった。自動販売機でアクエリアスの500mlカンを買うようになって、ああ、もう夏なんだなーと思う。

4月になって、作業服がガッチャマンになったのはすでに書いたけど、4月に支給されたのは、秋、冬、春用の生地が比較的厚いもので、夏用のはまだもらってない。このくらい暑くなると、蒸してきてしんどい。水道局かどこかから送られてくるのを待っているようで、会社としてもどうしようもないらしい。

なんでも未確認情報によると、夏服は冬服よりも更に派手らしい。先日、僕がK町の南口の方を検針していたら、学生らしい茶髪の二人組の女の子が「よくあんな服着てられるよねー」「ホントだよねー」とヒソヒソ話をしていた。別にいいさ。僕が選んで着ているわけじゃないんだもん。

そういえば、また先日、K町のライブハウスの近辺を検針していたら、高校時代の同級生のTくんとばったり遭遇した。彼はここら辺に住んでいるのだ。フリーの仕事をしているから、時間に縛られずに仕事ができるらしい。その彼も作業服を見て「ああ、これかぁ~~。スゴイの着てるよな~」と一言ボソッと言った。そうなんだよ。人生とは不条理なことの連続だ。

5月になって、今年もまた4割以上使用水量が増加して「ピー」音が鳴る率が増加した。いつもの2倍から3倍近い。これは、2月が28日間しかなくて、5月に連休が入るため、前回が58日間のに対し、今回は62日間という使用日数の差が原因だ。原因聴取したって、「いつもの同じで変わったことはない」というのが大半で、手間ばかり増える。

通常通りの使い方なのに、いつもより2,3000円増えたりして、いたずらにお客を混乱させるばかりのような気もする。今日の現場はB町とK町。合計350件ぐらい。K町の方は一部が商店街にかかっている。以前にも書いた店で、狭い建物の40cmほどの間にメーターがあり、途中に排水のダクトがあるため、ダクトとトタンの壁の間を胸を激しく圧迫させながら検針するところがある。

今日もまたイヤだなーと思いながら、狭い間に体を入れていったのだが、検針を済ませたところで、またばあさんが出てきて、あんた(この状況を)なんとかしてくんない? と言われた。

前にも、検針会社の者の意見では水道局に影響力がないとかかんとか言ったものの、ばあさんが局に文句を言ってもどうにもならないので、やはり何か言いたくなるらしい。隣の地権者にメーター移動を頼んだら「お前んちに火をつけるぞー」と脅されて、それをひどく気にしている様子だった。

僕は「まさか本当に火をつけたりしないでしょう」と言ったけど、言われた当人としては単なる脅しだから気にするな、と言われてもそう簡単に了承できるものでもないみたいだった。それで僕が「地道に水道局と交渉してみてくださいよ」と言うと「あんたはいいね。そうやって逃げられるんだから」とボソッと呟いた。そんなに深刻に思ってるとは知らなかった。

その後、一戸建ての家で、知らない人間に対して猛烈に吠えまくる犬がいるところがある。その家のメーターは、鎖に縛られている犬の行動範囲の外にあるのでワウワウ吠えられても、ちょっと不快なだけでどうということもないのだが、散水栓用メーターが裏庭にあって、その犬の目の前を通らないと行けない。

毎回、そこの家のおばさんに犬ラッキー(仮名)を抑えてもらっている。今日は、初めてみるおばさんが、「ほらラッキー吠えないの!」と叱りながら鎖を持っていてくれたものの、メーターを見て玄関に戻ってきたら、もうおばさんがいなくて、自由になったラッキーが猛烈に狂ったように僕に向かって吠えてきた。参るよなぁ。そこで僕はどうしたかというと、長さ35cmほどの金属製で、先端が2cmほど90度曲がって鉤状になっている検針棒をラッキーの鼻先に突き付けた。

これが、僕が検針員を3年ほど続けてきて発見した(つまらない)人類の叡智、吠える犬の撃退法である。棒状のものを鼻先に突き付けられると、犬は戸惑って、軽く鼻をつつかれようものならスゴスゴと後ずさりするのだ。その後、無事に検針を終了させ、T町まで再調査に行き、帰社。今週は中休みがなかったので、多少きつかった。

水道検針日記(199Z年4月22日)~コンサルの説教

今朝、20才以下のサッカー世界選手権ナイジェリア大会の準決勝「日本-ウルグアイ」を生放送で観ていた。2時50分開始で、5時頃終了だから、睡眠時間が4時間もなかった。でもさ、日本代表が世界大会の準決勝に進んだだけで嬉しいのに、それで勝っちゃったんだから、もう。本山の左サイドからのドリブルは見事だったなぁ。

二十歳前でみんな技術的に完成されてるんだよね。決勝はスペインとだ。小野が警告の累積で出場できないが、勢いがあるから、勝っても何の不思議もない。これで少しでも野球に対抗してサッカー人気が高まってくれたらなあ。

今日の現場はT町とH町。H町はマンションだけだから、検針自体は2時半頃に終了。再調を済ませて会社に戻ったのが3時頃。ある会社で「増」の聴取をしに中に入った。それでどういうわけか、「この2ヶ月間の間に何か変わったことはありましたか」と聞くだけなのに、随分待たされた。

近くのソファには、どうやら社員教育コンサルティングだかなんだかの会社の人と、その会社の偉そうな人がいて、所長と主任さんらしい人に話をしていた。コンサルティングの人が、営業が帰ってくるときに、社員の「おかえりなさーい!」という声が小さい、何言ってんだか全然わからねえじゃねえか、お前今までなにやってきたんだ、バカヤロウ、とかなり高圧的に怒鳴りつけていた。※

そのうち、他の平社員も呼ばれて、これからの新しい世界で生き残っていくためには、もっと積極的に自分をアピールして、自分で企画だしてマニュアルも作って、激烈な競争を勝ち抜いていくんだよ、と説教していた。

他人事なんだけど、そういう話聞いてるだけで、随分気分が滅入ってきた。サラリーマンって大変だよなぁ。スーツ着てネクタイしめて、どうでもいい物を人に買ってもらうために、応援団みたいな大声で「行って来まーす!」「おかえりなさーい!」って挨拶させられるなんて真っ平だ。

特に僕はスーツが大嫌いなんだ。自慢じゃないけど、多分、自分でネクタイ結べないよ。何年か前に、就職の面接のために仕方なくスーツ着て、それはいいのだが、ネクタイのしめかたがわからなくて、駅までの途中、横断歩道の信号待ちしているじいさんに、突然「すいません、ネクタイの結び方知ってたら教えてもらえませんか」って話し掛けたことがあるぐらいだもん。その時、じいさんは、3秒ぐらい僕の顔をじっと見て、「いいよ」とポツリと言い、ほらこうやってとか時折呟きながら無骨な太い指でしめてくれた。多分、じいさんにとって、町角でネクタイを結んでくれって頼まれたのも最初で最後だろうなぁ。

※この日記を書いた当時、水量増の聴取を客先でやった際にこととして書いたが、このコンサルの醜悪な実は僕が働いていた水道検針会社でのことだった。そのままを書くとさすがにやりにくくなると思ったので。

ちなみにこのコンサルに乗せられたのかどうかわからないが、この水道検針会社はその後、脱税をしたのがばれた(笑)。

水道検針日記(199Z年4月21日)~ミーティング

昨日はとてもよく晴れた、気持ちのいい春の日だった。検針してる最中は、ボーッとして、難しいことは何にも考える気にならない。日だまりを歩いているだけで、なんとなく気持ちよくなってしまう。帰りに川沿いの公園を通ったんだけど、半袖姿でベンチに座っている人達を何人も見かけた。一昨日が一日中雨で、カッパを着て検針したせいで、ぽかぽか陽気はとても嬉しい。

実は、今日は検針がない空き日だった。それなら完全に休日かというと、そんなことはなくてミーティングがあった。なんでも、これから毎月ミーティングが開かれるらしい。本来なら、最終日の翌日の再調日に行われるはずだが、今月は、最終再調日が26日の月曜になってしまい、大型連休とからむため、今日のような空き日にやることになった。

仕事で疲れているから本当なら昼間で寝ていたいんだけど、僕なんか先月のミーティングは香港・中国旅行で休んだから、続けて休むわけにはいかない。それにしても、みんな休みの日によく来るよなあ。「問題児」のコニーだって眠そうなミック・ジャガーみたいな顔して遅刻しないで、ちゃんと来た。彼は、昨日更衣室に財布入りのウエストバッグを忘れていた。大丈夫か?

ミーティングは、東と西に別れて40~50分くらい行われた。まぁ、内容としては、今すぐに思い出せないようなもので、特に新しい項目はなくて、漏水を発見した時には客の電話番号を聞いてくれとかそういうことだ。今回、ミーティングを迎えるにあたって、いくつか僕には不安なことがあった。

それというのは、最近、社員さんから、使用量がゼロ立方の時はガスメーターまでメモするよう指示が出ているのだが、僕はそれをやらない場合があるのだ。そもそもなぜガスメーターまで見る必要があるかというと、ゼロ立方のときは、メーター故障である疑いがあるからだ。ゼロ立方というのは、0~999リットルまでの水量で、1000リットルが1立方。

ちなみに20立方までが基本料金内の水量。今までは、メーターの針が1リットルも動いていない場合は、不進行というメーター故障の疑いがあるので、ガスメーターの針をチェックしていた。なんでガスメーターかというと、風呂とかお茶を沸かしたりとか、ガスと水は密接に関連している場合が多いからだ。

それが、今月からは1立方に満たないものは、0でも500リットルでも水量に関係なく全てガスメーターを見てこいという。そんなの変でしょ? 0ならともかく、20リットルでも500でも動いていたら不進行じゃないって証明じゃないか。そんなことを社員の人と、中国旅行から帰ってきた後に話し合って(僕以外の検針員は、3月末のミーティングで説明を受けていた)、結局、折り合いがつかなかった。その話をミーティングの場で持ち出されて、「みんなはやっているのに」という風に圧力をかけられたらツラいだろうなと思った。

それに、半年とか1年ぐらい、水量がずっと0立方の家がよくあって、「お宅は使用量がずっとゼロで、それでも基本料金だけはかかっちゃうけどいいですか?」と中止指示をしろと言われる場合が多い。なんでこういうことをするかと言うと、「うっかり」中止を忘れている客がいるといけないからだという。

実際に、なんで教えてくれなかったんだっていう苦情があるらしいし。でもさぁ、もう相手は大人じゃないの。水を止める必要があるんだったら自分で連絡する、そういうもんでしょ? それぐらい他人のせいにしないで自己責任でやるべきだよ。そういうことも以前、ミーティングの場で僕は発言したことがある。そんな文句ばっかり言ってると、今に社員の人たちに煙たがられるんじゃないかって、時々不安になる。

今日、思ったんだけど、何時の間に、僕はこんなに自己主張をするようになったんだろう。学校に行ってる頃は、くだらない規則を押し付ける教師にもちろん不満はあったけど、最初からあきらめて何も言わなかった。下手に文句でも言ったら「ええかっこしい」みたいに周囲からいじめられる可能性もあるし。

でも、大人になって、いろんな場面で僕ははっきり自分の意見を言うようになった。以前にも同じようなことを書いたと思うけど、自分がこんなに意見を人前で言うなんて昔だったら考えられなかったのだ。ある程度年をとって、恥じらいというかはにかみがなくなったというのも大きいんだろう。

まぁ、そうは言っても、検針みたいな公共料金関係の競争が(ほぼ)無い業種でなら自己主張できても、もっと競争が激烈で、コスト削減と売り上げノルマが過酷な会社では、そんなこと簡単にはできない。

僕は、大きな会社について知っているのは、ヤマト運輸だけだけど、そういう会社では、いくら正論であっても、組織の中で一人だけ「無給の残業なんかやってられるか!」なんてとても気軽に言えない。

仮に、ヤマト運輸みたいな会社では、中止指示しろと本部が決めたら、支店長が部下に「水を止めなくていいですかって必ず連絡とれ」、と徹底させるはずだ。個人の疑問とかやりたくないという意志は単なる職務放棄でしかない。それがむしろ一般的な姿なんだよね。

そんな中で、僕がどれだけ「正しい」ことを上司に言えるのか全然自信がない。多分、居酒屋で同僚を相手に愚痴るのがせいぜいだろうな。まぁ、そういう締め付けが嫌だから検針員やってるんだけどさ。