水道検針日記(199Y年6月19日)~下剋上おばさん

今日は10時過ぎから雨が降り始めた。今日は蒸し暑くて、カッパを着て検針すると、(髪が顔にかかってくることもあって)だんだんイライラしてくる。いつもはタオルを頭にまいてやるのだが、今日は雨が降っているので帽子をかぶった。

帽子にしろ、タオルにしろ、髪の毛が非常に邪魔だ。前がよく見えにくい。切ろうかな。

一冊目はU町。初めの方で、一人暮らしの老女が住んでいた家は依然としてメーターを撤去したままで、やはり復帰の見込みはないらしい。門を開けてもらったついでに隣の人に訊いたら、脳梗塞か何かで倒れて、救急車に運ばれて現在の入院中とのこと。

意識ははっきりしているものの、もう一人暮らしをするのは無理らしい。ただでさえ、足が悪くて移動が大変なのに、どこかに麻痺が残ったりしたら、それは一人で生活するのは無理だろう。

彼女は身寄りもないと言っていたなぁ。遅からぬうちに死ぬこともいずれ体がきかなくなるであろうことも淡々と話していたが、今、病院で何を想っているのだろうか。

8:2で白髪が多い髪、曲がった背中、しわだらけで歯のない顔、くるぶしに瘤があってひきずるように歩いていた脚、のんびりした関西弁の話し方などをまだはっきり覚えている。

こういうような、一人暮らしの老人がある日、体を壊すか何かして、家を出ていってしまうのは僕は何回か見ている。何とも思わないわけでもないけれど、特に寂しい想いをするわけでもない。

U町の検針を終えて、セブンイレブンで具たっぷりサンドイッチなどを買い、市民会館で昼食をとる。中年の男が報知新聞をずっと読んでいたので毎日新聞で我慢した。

ところで、市民会館の1階には碁や将棋などができる施設や雑誌が置いてあるのだが、いつも50以上の男性が多くソファに座っている。60~70代も多い。中には、営業の仕事に疲れたようなサラリーマンや40ぐらいで何の仕事をやっているのがわからない謎の男もいる。

2,3人で何か世間話をしているのもいれば、ソファに座ったまま所在なげにポツンと座っている人もいる。全体的に雰囲気は、なごやかながらも皆各自の結びつきのようなものがない孤独な感じがする。

まあ、それはいいのだが、今日は謎の人物を見掛けた。60前後のおばさんで、まず目つきからしてどこかを睨み付けるようにして不自然なのだが、人をあっと言わせるのは、背中と胸のあたりに何か糸みたいなもので、ダンボールを切り抜いたのを張りつけているとこだ。

胸の方には縦横2つずつ、合計4つもある。各紙片には何か字が書きつけてある。前の4つの紙は、残念ながら細かい字で書いてあるので読めなかったが、ただ一つある背中のダンボール片には「下克上」と大きな字で書いてあった。

何だろう、これは……。一体、なぜ「下克上」なのか。胸の方の4つの紙には何が書いてあるのかすごく気になる。でも勇気がなくて彼女の前に立ちはだかって文字を読むことができなかった。またいつか機会があったら、今度は思い切って全部読ませてもらおう。