水道検針日記(199Y年7月6日)~客からの電話

どうもアイルランドから帰ってきてから仕事にあまり行きたくない。しんどい想いをしてこせこせ働くよりも、もっとのんびり旅行したり、無為な生活をする方がいいんじゃないかという気がする。

しかし、一方でこの検針の仕事は月に15、6日しか働かないし(月末の1週間は休みだ)、今日だって出勤時間は10時過ぎだし、部屋に帰ってきてからはぼーっとする時間が多い。

これ以上無為な時間を増やしてどーするのか、とも思う。それにアイルランドの人たちだって毎日遊んで暮らしているわけでもないしね。まぁ、こういうことを書くと長くなるのでここら辺でやめよう。

そんなわけで仕事にあまり行きたくないので、今日は、起床時間が予定より30分ほど遅れた。目覚ましを無意識のうちにとめてしまったのだ。この頃、ずっとW杯サッカーを観ていて、今日は試合がないということで、なんとなく元気がなかった。

アパートから自転車を出している時に僕の部屋の上に住む韓国人留学生のピュルキュンと会った。ピュルキュンはこの2,3ヵ月顔を見ていなかったので、引越して他の人が入ったのかと思っていたのだが、ちゃんといた。僕が軽く挨拶すると、彼は笑顔で会釈した。

この笑顔の真の意味は、他の人にはわからないだろうが、我々はちゃんと通じあっている。連日、朝の4時に起きてW杯の試合を観戦する熱意について、同志として敬意と親しみを感じているのだ。ピュルキュンは少し太ったかな。よく見たら髪が薄いのをごまかすために半ば強引に前髪を後ろに撫で付けているのだってキュートだ。

 

今日の現場はB町とK町。合計330件。B町の方は1時間半くらいで終わった。ここの冊には、91才で一人暮らしをしているMさんというお宅があって、ベルを鳴らしたが、Mさんは出てこなかった。単によく聞こえなかったのならいいけれど、もしかしたら孤独死を遂げて今ごろ、臭いを発してるんじゃ……と思ってぞっとした。

今日は、曇って日差しが弱かったので、気温も先週ほど上がらず比較的過ごしやすかった。

だから金曜はジュースを1日で7本も飲んだのに対して、今日は4本くらいで済んだ。検針を終えて、会社に戻ると、メモを事務の人からもらった。何だと思ったら、K町の公団住宅みたいな造りのマンションで、今日、僕は植木を倒してしまって、土がこぼれたのを戻したのはいいが、そのことについて事情を知りたいから電話をくれとのことだった。

それで仕方なく電話したら、相手は40代半ばくらいの女性で、声の感じとわざわざ電話をかけてきたことから察するに、彼女はかなり憤懣を抱えている様子だった。

それで僕が、メーターボックスの前に植木鉢を載せた棚があり、ボックスがなかなか開かなかったせいで、強く引いたら勢いあまって棚が倒れてしまったと説明した。

それで彼女としては「どうも本当に申し訳ありません」という謝罪が当然くるものと思っていたのだが、こちらとしては、そもそもメーターボックスの前にわざわざそんな倒れやすく、また脆いものを置いた責任は向こうにあるし、不完全にしろ、土を掬って鉢は元に戻したので、そう簡単には謝ったりしない。

「あなたの不注意に対して私は憤りを感じている。正式に謝罪するべきだ」というのであれば、その責任は認めるけれど、でもあなただって問題がないわけじゃないよ、と一言いいたい。

でも、K町の公団住宅風エレベーター無しマンションの5階に住むその女性は、僕の説明の後無言だった。それで僕も何も言わないでいたらそのうち切れてしまった。やっぱりこういうのは後味は良くないなぁ。