水道検針日記(199Y年8月3日)~91才、大往生

今日から8月の仕事が始まった。他の仕事の人と比べたら僕は休みが多い方だとは思うものの、やはり休み明けというのは辛い。昨日の夜は、明日から仕事だなぁ、と思うとひどく憂鬱になった。7月末は8連休だったからね。同僚の検針員はよくみんなちゃんと今月も出勤するなあ。

今日、出勤したのは10時半過ぎで、すでに大半の検針員は現場に出ていた。中には、もう仕事を終えて帰社してきた人も二人ほどいて、「今日は一件目を検針しようとしたらら、タラーと汗が流れてきた」などと話していた。

今日はとにかく蒸し暑かった。カンカンと日が照りつけるのも厳しいが、このように空気がモアッとするのもかなり不快だ。ここが肉体労働の正念場だ。

以前だったら、このくらいで負けるものかと思ったものだが、アイルランドから帰国してきてからは、なぜか仕事に対する熱意というかやる気が失せてしまったので、できれば軽井沢にでも行って昼寝をしたい。

フランスでは末端の職場でも一ヶ月くらいのバカンスは当たり前だと聞いたけれど、本当だろうか。いいなあ。日本は景気が悪いとはいえ、まだまだ経済大国なのになんでフランスみたいに……というのは間違いで、ロクに休暇を取らず、サービス残業してセコセコ働くからこその「経済大国」なのだ。

ヨーロッパ並みの休暇と賃金を保障(資本側と労働者側の利益分配を是正する。現在の労働分配率は資本側に有利なように傾いている)したら、日本の経済力はがた落ちだ。

ところで、今日の現場はK町5丁目。合計285件くらい。昼過ぎまで日が出て暑かったが、1時を過ぎた頃から曇って楽になった。ここは住宅密集地なので比較的楽に検針できる。

3時間くらいで全部終了。いくつか今日の検針で目立ったことを挙げると、

1.ボールペンを落としてメモを書けなくて困った。

2.料金にすると18万円分も漏水している家があった。ここは屋上のタンクが故障するらしい。これで僕が知っているだけで3回目。もうここまでくるとただのアホ。

3.戸が開放してあって、何回も来ているので「検針でーす」と言いながら勝手に靴を脱いで風呂屋の中にある井戸メーターを見ていたらおばさんが「もおお、なんだと思ったー。ピンポン鳴らしてよー」とひどく怒っていた。苦情の電話があると少しメンドウだな、と思ったが何にもなかった。

7月6日にB町で91才のMさんという老人が一人暮らししていることを書いたけど、今日、社員の人が「あそこの人死んだんだって」と言っていた。

あそこの家は家の中を突っ切って食堂の窓から外に出てメーターを見なければならないところで、行くたびにジュースなんかをもらって少し話もしていた。最後に会った時は「なんだい、あんた髪が長いから女の人かと思ったよ」と笑っていたっけ。91才となれば大往生だね。