水道検針日記(199Z年4月12日)~4月は入居の季節

10日ぶりの検針日記か。この間、書きたいと思う日もあったのだけど、いろいろと身の回りでゴタゴタがあって、あまりその余裕がなかった。インターネットの負の部分を身に沁みてわかったような。まぁ、でもゴタゴタがあっても悪いことばかりでもなくて、それを通じて改めて友達を得るようなこともある。うん。元気に行こう。

何時の間にか4月も半ば。段々春めいてきましたね。もうこれからは、寒の戻りもないだろう。桜も咲いて、新芽も頭をのぞかせ、緑が鮮やかになっていく。自然の摂理は変わることがない。

時の流れの早さに、時折、軽いため息をつきながらも、仕事がイヤなものだから、唯一、月末の連休を希望にして「早く終われ、早く終われ」と念じながら頑張ってます。今週は水曜日が中休みだ。嬉しい。それで、明日が会社と組合との再団交がある。うーん、前回の3月半ばの団体交渉では、ほぼ完全に要求が拒否されただけに、今回も厳しい状況だ。

ところで、4月は検針業界にとって一年の内で一番忙しい時期。4月から新年度が始まるので、会社での移動や学生が地方から上京してきたりと、いろいろあるでしょ? 「検針業界にとって」と言っても、当地だけでも区市町村によって事情がかなり違うから一概には言えないかもしれない。例えば**みたいな古くからの下町では、アパートも多くないし、学生が住む地域でもないので、大したことがないけれど、*****は小さなアパートがたくさんあって、学生とかプータローなど若年層が2,3年で激しく移動するところなので、入居調査が大変なのだ。

入居してすぐに連絡する人ばかりでもないんで、仕方なく不動産屋に問い合わせの電話をすることが多い。この季節に引越してくるのは、学生が大半なので、部屋に居るケースもよくある。このところ、毎日、そんな学生と顔を合わせているんだけど、みんな二十歳前後で、中には地方から上京してきたばかりで、これからの生活にいろいろな希望を抱いているのが伺われて、かつての自分を見るようだ。

先日、W町で入居調査で、二十歳過ぎ位の眉毛の太さが3ミリしかない女の子に名前と入居日を聞いていたら、その間、彼女はずうっと僕が着ている作業着を怪訝な顔して見ていた。「なんでガッチャマンの格好した男が水道のことを聞いてくるの?」とその顔に書いてあった。なんだよ、俺だって好きで着てるんじゃねーんだ、と言い分けしても仕方ない。人生って不条理なものさ。

この前、検針中に水道局の人とすれ違った時に、この格好を笑われた。大垣君(仮名)は、3月まで作業服を着て自転車で通勤してたのに、今では汚いジーパンとよれよれのトレーナー姿だ(それでいいのか大垣?)。

新しい作業着になって早くも10日あまり。最初は人権侵害だとか文句がブーブー出ていたものだが、意外にも早くも不満の声は聞こえなくなっている。もちろん、「こんなの着て表を歩くなんて……」という感想はある筈だが、こんなわずかな期間ですでにこのデザインに感覚が麻痺してしまっている。どうせプライベートじゃなくて仕事の間だけなんだから、どうでもいいよ、というわけだ。

人間なんでも慣れないものはない、という言葉は本当だ。慣れの問題の他に、機能的に以前の作業着よりもはるかに着やすいというのがある。具体的に言うと、生地が柔らかくて動きやすい。以前のようなボタン式ではなく、ファスナーなので風が強いときは防寒性が高い。でも、こういうデザインに慣れてしまうというのもねえ。私服でもガッチャマンみたいな格好になっちゃったりして。

ところで今日の現場はE町とK町。合計350件。午前中は霧雨が降っていたが、午後から薄日が差してきた。E町から始めて、のんびり歩いてやった。今日はクルマの積載もなく、比較的順調に進んだ。いつもオンボロのワーゲンを狭い庭に、壁際までギリギリに寄せて停める家があって、いつも僕は下にもぐってメーターを見なければならず、その家の人を呪っていたのだが、今日行ったら、なんとそこの家は売りに出されていた。ヨシッ。今日はこれで一ついいことがあったぞ。

次回、この家に来たら、また同じ状況になっている可能性も大いにあるが、それはその時のことだ。

E町を済ませて、K町の宝「***(名前を忘れた)」で炒飯を食べて検針。ここの冊には、以前、声をかけずに(僕は声はかけたのだが、家人には聞こえなかった)僕がメーターを見たことでちょっとモメた家がある。そこの家では、バイクが一回と自転車が二回盗難にあって、当時、かなり神経質になっていたのだ。

それから、僕は毎回、ベルを鳴らしてオヤジに「水道検針でーす」とことわってメーターを見るようにしている。一時はお互い感情的な対立になりかけたのだが、もう大丈夫。

今日の検針で、使用量がほとんどゼロで、人が住んでいる気配がない家があって、隣の家の人に「あのー、このままでも基本料だけはかかっちゃいますけど、いいんでしょうかねー?」と僕が聞いたところ、なんでもその家は老夫婦がそろって入院していたが、最近になって次々と二人とも死んでしまい、財産として残った家は、子供(心の病気で入院中)と他の親族が相続するのだが、その配分を巡って裁判中とかで、大変なことになっているとのことだった。

以前、九州かどこかで遺産相続の争いで、騒動にうんざりした男が歩道橋から一万円札を何百枚もバラまいた話を思い出した。金がないのもツライというか大変だけど、骨肉の争いというのも相当にしんどい。こんなもん、初めからなければ人を怨むようなことにもならずに済んだのに……って当人たちは思うこともあるんじゃないだろうか。

かつて、僕は独り暮らしのばあさんに養子を勧誘されたことがあるけど、やっぱり断ってよかったね。