水道検針日記(199Z年7月19日)~検針員に向けられる敵意

今月初めての検針日記だ。つい先日までは、じとじとと、時にはスコールのような激しい雨が降る梅雨らしい日々が続いていた。もちろん雨はイヤなんだけど、30℃を越える蒸し暑い方が体力的にはこたえるので、今日のように比較的湿度が低くて風が涼しい日は嬉しい。

僕は夏がちょっと苦手なものだから、毎年、「夏が早く過ぎるといいなぁ」と思っている。ところで、明日あたりから小中高校生は夏休みらしい。特に小学生の頃なんて、僕は夏休みが大好きで(誰だってそうだ)、8月末までの40日間の休みがひどく長く思えたものだけど、大人になった今は9月なんてすぐそこに思える。

中学や高校生の頃は、毎日のように休み中に部活があったし、それがなくても3年生の頃は受験勉強しなければならなかったから、よくよく考えれば夏休みが純粋に好きだったのは、(少なくとも僕の場合は)小学生の頃だけだったのか。あー、そういえば大学の頃にも夏休みがあったなぁ。そういえば。すっかり忘れてた。あんまり授業に出てなかったからねぇ。ほぼ全く学校に行かなかった年もあったし、バイトもやってたし。あんまり今と変わらないなぁ。

今月の仕事は今週いっぱいでほぼ終了なんだなぁ。休みが8日間もあるなー。どうしようかなー。

さて、今日の現場はN町とK町。N町の方は団地(平屋と3階建て)だったので、110件を1時間ほどで終了。それから前日の再調査をやって、K町南口の大衆中華料理店「**」で炒飯を食べ(待っている間に報知新聞と朝日新聞を読む)、それからK町の検針へ。

ここの冊には、3月に、僕のためにエロ本をメーターボックスの上に置いてくれた(仮説1)ばあさんと、昔、**省に勤めていた、毎回必ず石鹸をくれるばあさんがいるところだ。

エロ本ばあさんの家は、以前は、毎回門を開けてもらって、「おしらせ」と引き換えのような感じでタバコをくれていたのだが、この頃は、いつも門にカギがかかってない。元々、僕はタバコは吸わないから、そんなもんいらないと言えばいらないものの、なんとなく寂しいねぇ。

それに引き替え、**省に務めていたばあさんの家では、今日も「**さん、せっけんあります。玄関に寄ってください」というメモがメーター横の椿の木に紐でくくりつけてあった。ここまでされると気がつかないフリはできないね。

縁側あたりから僕の姿が見えたらしく、僕が玄関に行く前にばあさんが出てきた。「あー、**さんすいませんねえ。今日はせっけんが一個しかないのよ」といきなり彼女は石鹸の話をする。誰かに喜ばれるのが嬉しいんだな。

それで話を聞いて驚いたことに、彼女が毎回僕にくれる他に、アパートの店子の女子大生にもあげている石鹸は、全部とは言わないまでも、そのいくらかは化粧品店で、買物をしたおまけにもらっているものらしい。あの店ではけっこうたくさんの物を買うから、その位のサービスは当たり前、ということらしい。

ということは、ばあさんは84才にして化粧品関係をそんなにたくさん買っているのか……。そういえば、口元にはしっかりと口紅が塗られている。もしかしたら頬にはファンデーションか何か塗っているのかもしれない。ばあさんは、84にしては同年代の人と比べて皺が少なくて化粧をしてもそれほど異様ではないだろう。

モンペみたいなズボンをはいて、腰が少し曲がって、脚もかなり悪いみたいだけれど。それにしても、80も過ぎていまだに化粧品をし続けるとはすごいなぁ。話はかなりくどいし、対話というよりは話は一方的になりがちだけど、気だけはまだ若いみたいだ。

検針が終わってから、再び昨日の再調査に行った。未検針の家と入居手続きがまだの家が残っていたからだ。会社に戻るのにちょっと遠回りするだけだし。未検針の家は、老女が入院してしまっていて、門のカギを隣の人に開けてもらう必要があった。

その隣の家の人が在宅で、ようやく検針できた。入居調査の家はアパートで、一応、メーターもチェックして、アパートの前で数値を用紙に書きつけていたら、物音を聞きつけてきたらしい60ぐらいのおばさんが出て来て、「あなた何なんですか」と聞かれた。それで僕は「水道検針です」と答えた。

「水道メーターなら、そこにあるでしょう」とおばさん。「ああ、もう見ましたから」「それで、なんかまだ用なの?」「105号室の方が開始手続きがまだなんでぇ……」。要するに僕が言いたいのは、水道検針をしていると、時々、露骨な敵意というか、警戒を受けることがあるということだ。ほんの時たまムカつくことあるなぁ。警戒する側の気持ちもわかるけどなぁ。検針業務一般が人々にあまり知られていないということも大きいんだな。これは僕が、あんまり(いや、全然か)爽やかなタイプの検針員じゃないからだろうか。同僚の荒川氏(仮名)みたいな人当たりがソフトな人や女性の検針員ならどうなんだろうか。聞いてみたいところだ。

会社に戻ったのが3時頃で、軽い雑務を終えて、今日はそれからK町に行った。友達のTちゃんが絵の個展を一日だけやるというのだ。

K町南口駅前の噴水が勢いよく水を噴き上げていた。「あぁ、この噴水や駅前のサクラ銀行や大きな喫茶店なんかも俺が検針やってんだよなぁ」と思うと、なんだか社会にスゴイ貢献をしているような気がした。