水道検針日記(199Z年6月17日)~マンション管理人

一ヵ月ぶりの検針日記か。まだ6月だというのに、ここ数日は真夏日が続いている。今日、**地方の最高気温は30度を越えたらしい。夜になると涼しくなるので、それが真夏との違いか。

それにしても、まだ夏の気候に慣れていないのか、検針に時間がかかる。冬だったらいくら早歩きでも平気なんだけど、夏はだめだ。同じ時間に出勤しても、冬や秋より夏は帰社時間が遅い。

缶ジュースを何本も飲んで、公園で顔を洗ったりしないと、とても夏の検針はできない。ここのところ、暑いせいもあって、ここ一週間で2回も同僚と飲みに行った。生ビール(多分、発泡酒だろうとのこと)が7時まで50円のところがあるので、みんな喜んで行く。

実を言うと、同僚と飲みに行くのはそんなに頻繁にあることではなくて、せいぜいここ数ヵ月のことだ。一人飲み会好きで音頭を取る人が出てくると状況は、かなり変わる。その飲み会の席で、日頃、会社の事務所で軽く話すだけでは知ることができなかった個々の歴史や、検針での出来事なんかを聞けてすごく面白かった。

みんないろんなことがあるんだなぁ。それに大垣くん(仮名)を、彼が好きらしい女の子をネタにからかって楽しかった。

今日の現場はW町とK町。合計340件ぐらい。検針の前に火曜日に検針した分の再調査をした。(水曜は休みだった。)火曜日は、いつもダンボールを積載している家で荷物をどこかしてたら、おばさんが冷たいお茶とスイカをくれた。スイカは今年初めてだ。うまかった。

今日の再調査で心配だったのがオートロックのマンションだ。そのうち一つは、業者が掃除中だったので簡単に入れて、もう一つも管理人さんが毎日の日課で掃除をしている最中だったので、快く入れてもらえた。ここの管理人さんには、初めの頃は胡散臭そうな目で見られたものだが、今年に入って頃からなんとなく好意的に迎えられるようになった。何事も信頼を勝ち取るには時間がかかるものなのだ。

火曜日の検針のときには、僕はメーターを見ながら、管理人さんは廊下を掃きながら世間話をした。「あんたんとこはボーナスがたくさん出ていいねー」(水道局と誤解されているみたい。水道局の下受け会社の契約社員みたいなもんなんだからボーナスなんて無きに等しい。)とか「最近、ここいらで泥棒が入ったらしいよ。この頃の泥棒は家財道具はかさばるから手をつけないで、カード類ばかり狙うみたいだねぇ」とかそんな話に「へー、そうなんですか。景気が悪いせいですかねー」などと適当な相づちを打って話を合わせた。

そこの管理人さんはトーク好きな人なのだ。管理人さんにはいろいろ便宜を図ってもらう必要もあるので、愛想を良くしておかねばならない。ところで、こうやって、あんまり興味がない話題でも「へー」とか「はぁ」とか「そうなんですかー」などと言って世間話をしている自分に検針員として、また大人としての成長を感じたなぁ。

それで今日は「火曜日の分の再調査に来ましたー。オートロックお願いできますか?」と玄関から10mぐらい離れた場所にいるニコやかに挨拶をした。「ああー、いいよー」と言いつつ管理人さんはポケットの中のカギを探った。

それで僕は15秒ぐらいドアの前で待ってたんだけど、来ないからどうしたのかと思って外を見たら、明らかに買い物帰りの、二十歳ぐらいでノースリーブのワンピースを着た女の子がコンビニの袋を持って歩いていて、管理人さんが、その後姿を口を開けてじーっと見詰めていた。それで僕と視線が合うと、ちょっと気まずそうに「あ、いや、あの女の人がさぁ、あそこにゴミを捨てるんじゃないかって思ってさぁ。いるんだよ、今ごろの時間になって捨てる奴が。本当になぁ、困るんだよ」と妙に言い分けがましく言った。それで「えー、本当は女の子のお尻見てたんじゃないですかあ?」と僕が突っ込むと「そんなんじゃないよ。違うよっ」と半分本気で照れていておかしかった。

W町の検針を終えた後、K町へ。昼休みは友人が住むシェアハウスでとった。そういえば、最近シェアハウスには行っていない。久しぶりのシェアハウスは、庭の戸が開け放たれていて涼しかった。

そういえば、今日みたいな日の去年の8月、友人Pがここでフルチンで寝てたのを思い出した。おにぎりを食べているうちに、今日は仕事が休みだという住民のAちゃんが起き出して、カップルになったPの醜悪な所業とか一日12時間労働するも生活は必ずしも楽とはいえないAちゃんの苦境の話などを聞いた。面白かった。

Aちゃんと30分近く話をしてしまったので、急いで検針を進めた。途中のボロアパートで70代の髪を黒く染めたばあちゃんからアイスネスカフェをもらった。甘くて特にうまいわけではないが、気持ちが嬉しいね。