水道検針日記(199Y年11月2日)~オシラセ カナラズ トウニュウ

およそ一週間ぶりの仕事だ。しばらく間が空くので、月末は毎回のように8月31日の小学生みたいな気分になる。昨日の夜は憂うつだった。

毎月、月の始まりは「早く月末にならないかなぁ」と願って仕事をして、それでいざ休みに入ると仕事がある週の倍の早さで時間が経つんだな。そんなもんだよな。

偶数月は件数が平均していて、数が多くて苦労する日がないかわり、少なくて楽な日もなく、ダイナミズムに欠けるところがある。それに対して、今月のような奇数月は、前半が件数が多目で、半ばに460件の山場があり、それが過ぎればかなり楽になってのんびりできるが嬉しい。生活のためだ。がんばろう。

実は土曜日に、フットサルというミニサッカーをやって(今回はあまり活躍しなかった。悔しい)、相手側選手と接触して左手親指を突き指してしまった。それで日曜日はずっと湿布を貼って冷やしていた。

検針業務をするにあたっては、右手に検針棒を握り、左手にハンディを握るので、どこか指を怪我をするとまともに仕事に影響が出るので非常にこまる。それで親指というのは何をするにも重要な存在なので、どうなることかと心配だったが、今日になって大よそ腫れは引いた。よかった。

ところで、フットサルコートの借り賃って一時間あたりいくらぐらいだと思いますか? 大体、都内及び近郊だと一時間で7500円くらいはかかるんだって。それで我々は2時間やったので1万5000円払った。

それを3チームで頭割りして1チーム5000円、僕のチームは5人ぎりぎりしかいなかったので一人頭1000円だった。2時間で9分セットを8回くらいやって走り回ったから、かなり元はとった気がしたけど、でももう少し安かったら嬉しい。それにスポーツ振興の意味でもなんとかならないかな。

 

ところで今日の現場はL町とH町。合計430件ぐらい。初日だから再調査がないとはいえ、430件はそんなに楽じゃない。初めにH町を回った。

ここの冊の特徴は、某カルト教団の建物があることと、マンションが多いことだ。マンションなんかの集合住宅が多いと仕事がしやすくて楽なんだけど、反面でオートロックのところもあって、簡単に中に入れない建物は非常に面倒だ。

どういう基準か不明だが、同じ管理会社のマンションでも暗証番号が分かるところもあれば、わからなくて一々近くにいる管理会社に行って入り口を開けてもらわなくてはならないところもある。

ガスや電気の検針は毎月なので、管理会社から暗証番号を教えてもらっているか、もしくは鍵をもらっているところが多いらしい。その点、水道は二ヶ月に一度なので自助努力を求められがちだ。

急に暗証番号が変更されて「新しいのを教えてください」と電話しても殆ど言ってもらえない。なんのかんのとはぐらかされてしまう。「今までは黙認していたんですが、本当はおしえたくないんですよ」だって。「黙認」というのもねえ、誰かんちに遊びに行くわけじゃないんだから。

まぁ、今日そのような近所の管理会社の人に来てもらって中に入ったマンションの一室を検針したら、本来なら「山本豊」とか「飯島洋子」などとあるべき名前の欄に「オシラセ カナラズ トウニュウ」というメモが記入されている部屋があった。

これはかなり異様なことで、今までこんなもの見たことも聞いたこともない。特記事項として「イヌハナシガイ チュウイ」とか「カンリニンニ カナラズ コエカケル」とか「オウタイ テイネイニ」などと注意事項が書き込んである家は少なくないが、名前の欄にそのままその文面があるというのは相当なことだ。

そう言えば、前回そこの部屋の人から「おしらせが入ってなかった」と僕が会社に戻った時点ですでに苦情が来ていた。社員の人がいうには相当に強烈で変わった感じの人だったらしい。ワンルームに住む女性である。

僕がそのマンションを検針して帰社するまでせいぜい4時間もなかったから、彼女は、水道の検針がその日にあるのを知っているか或いは物音から検針日であることを察知して、4時間の間に自分のところに「おしらせ」がないことを知り、電話番号を調べて強烈に強硬な抗議の電話をしたのだ。

水道局だか検針会社だかのこの「おしらせ」への処置は、彼女からの苦情に対する怯えのしるしだろう。しかし、僕は余程ぼーっとしていたのでなければ、その部屋に「おしらせ」を入れていないはすはないんだけどな、変だな。

H町を終えて、大学近くの公園で30分ほど昼休みをとった。

大学がある辺りは住宅街で、周りに喫茶店とか酒場なんか全然なくて学生にとってはちょっぴり寂しいところだ。H町の検針は182件を2時間20分ほどで終わった。一戸建てが多いせいであまり捗(はかど)らない。今日は少し涼しいくらいの気候で検針にはちょうど良い日和だった。

会社に戻って、社員さんにメモリーカードを提出したら「苦情が来てますよ」と言うので何かと思ったら、前記のマンションとは違う建物の部屋からで、「増メモ(通常より4割以上多かった家に何か変化がなかったか連絡を求めるもの)」を入れたことに怒っているらしい。

そこのうちは、昼間は寝ているから、ベルなどならすべからずということになっていて、以前にも一度「増メモ」を入れたことがある。その時は「水量が増えるような覚えがない。どうもおかしい。事情を聞きたいので検針員が午後1時~4時の間にこちらに電話して欲しい」という要望を書いたメモをもらった。

「事情を聞きたい」と言ったって、あんたの家の事情を俺が知るわけないじゃないか、などとブツブツ言いながら電話してみたが、誰もでなかった。二回目も同じ。なんでだろ。それで、激しい怒りの割だったには、それはそれで終わってしまった。

元々、そこの家は多少おかしいところがあって、廊下に面してメーターボックスがあるのだが、そのボックスの真ん前に洗濯物を干す50cmほどの高さの物干しがある。それで、その物干しに札がつけられていて、読んでみると「物干しを動かさないでください。洗濯物にさわられたくありません」とあった。

しかし、どう考えたってその物干しをどかさないとメーターが見れないので、あっさり無視して動かした。それに誰がどこの誰とも知れない人のタオルだのTシャツだのを触って喜ぶというのか。

それで今日の苦情は、どうやら「増メモ」自体に対する反発らしい。「プライバシーの侵害」か。まぁ、それならわかるけど。それで、次回からはその家には一切「増メモ」などの聴取はしないことになった。それもまたよしだ。