水道検針日記(199Z年3月15日)~検針ハイ

約一週間ぶりの検針日記。今月に入って二回目だ。この頃は、検針日記のことを考えると、なんだか頭が重たくなるような気がする。

今日の現場はB町三丁目と六丁目。合計310件。今日は、10時20分頃に出勤して、11時前から検針開始。天気予報でかなり激しい雨が降るということは聞いていたので、カッパを持っていったが、予想よりも早く雨がパラパラと降り始めた。

今日は一日どんよりと空が暗く、空気が生暖かかった。カッパを着て仕事をしていると、蒸し熱くて不快指数が高まってかなりイライラした。なんだか梅雨の季節みたいで、とても三月の気候とは思えなかった。でも、今日の最高気温は13℃ぐらいだったかな、大して上がってないんだよね。

この三丁目の方は、塀を乗り越えたり、重い積載物を動かすようなこともなく、癖がなくて比較的やりやすいところで、12時半頃に終了。

それから六丁目に移動。途中でモスバーガーに寄ってハンバーガーを二つ買った。ここのは高いんだけど、まぁ、たまにしか食べないし、この現場の日に定例化するのもいいと思って買っている。でもさ、モスバーガーって丁寧なのはいいんだけど、やっぱりマクドなんかと比べると時間がかかるね。今日は雨が降ったせいか、店員の丁寧な応対を聞いているだけでイライラした。お釣の計算とか「この番号札をお持ちになってしばらくお待ちください」なんて言ってる間に、ラーメン屋みたいに待ってる客の注文だけでも聞いておけばいいじゃないかと思う。

一時過ぎから六丁目の検針開始。それまで雨が止みかけていたので、カッパは脱いでいたのだが、一時半頃になって雨脚が強くなって上だけカッパを着た。動きの邪魔になるうえに通気性のないモノはなるべく着たくないけど、風邪ひいちゃうからね。雨が降ったといっても今日のは、長靴もいらないほどの弱いものだったので、多少イラつくだけで大変な目にはあわなかった。

そういえば今年は雪が降らなくて助かったなぁ。今日の冊は比較的楽なところで、時間的余裕があったのでノンビリやることにした。この冊には、三分の二程終わったところに面倒な家がある。

塀を乗り越えて(塀と住宅の幅が狭くて入れない)敷地に入り、犬が掘り返した土に埋まったメーターボックスを見つけ、ボックスの蓋を開けたら今度は土を掘り返して、やっと埋まったメーターの指針を見ることができる。

しかも塀に登るのに大きく伸びた紫陽花の木の枝が邪魔して苦労が多い。特に夏場は、枝は伸びるし葉っぱと花でいっぱいで塀からなかなか下に降りられないぐらいだ。さらに、この家には本当は臆病なくせにやたらに吠えるバカ犬がいてすごくうるさい。僕が塀に登る時と塀から降りるときに噛まれるんじゃないかといつもヒヤヒヤする。

それで、この犬は僕の姿が見える限り、つまり付近一帯の検針をしている間中ずうっと吠えている。いつか蹴っ飛ばしてやりたい奴だ。それで今日も「ああー、またこの家か……」とため息を吐きかけたら、なんとメーターが玄関前の非常に見やすい位置に移動してあった。多分、メーターボックスが金属製からプラスチックに変わっていたので、業者が水道局の指示を受けて改善していくれたのだろう。利用者もいくらか金を負担したのかもしれない。他にも、塀の内側から外側の道路に面したところに移動してある家があった。助かるな。

K町六丁目の検針を終え、金曜にやった分の再調のため大通りを東にK町へ。あるワンルームマンションで、少し管理人さんと話をしたところ、なんでもマンションの経営者というのは意外と「ヤー公」みたいなのが多くて、管理がいい加減且つ秘密主義で、入居者の氏名を全然教えてくれないんだそうだ。

こういう話は他でもよく聞く。かといって、そういうのも何かと困るので、引越が始まると、業者の人に何号室に運ぶのか聞くなど、管理人さんが自力で名前ぐらいは確かめるらしい(この管理人さんは僕が知る中で最も勤勉な人だ)。

しかし、引越は土日に行われるのが大半なのに、管理人さんの休みも土日なのでそれもなかなか難しい。マンションに入居して、管理人に挨拶しないというのもねえ。引越していくときも、粗大ゴミを引き取ってくれるよう役所に連絡しないで、燃えないゴミのところにポンと置いて行っちゃう人が少なくないらしい。そういういい加減なのは、意外と女が大半で、ゴミの分別も男の方がしっかりやるんだそうだ。

このマンションは大して高くはないのだが、ワンルームだから狭い部屋が各階に蜂の巣みたいに並んでいて、全部で70戸ぐらいはあると思う。こういうところで検針をしていると、メーターとメーターの間が近くて、各メーター間の移動に4秒ぐらいしかかからない。だ

から一戸建ての住宅街と違って、移動の時間に対して下を見る時間の割合が高く、頭に血が上りやすい。50件ぐらいやってると、だんだん頭がクラクラしてきて、エレベーターの中でぼんやり考えごとをしていたら、自分でもびっくりするくらい大きな声で「はっはっは」と笑っていた。これが噂の検針ハイ。

金曜にこのマンションを下から順に上がっていって、最上階から下を眺めると気持ちがいい。遠くに山並みが見えた。平地を歩いているときはなんとも思わないのだが、こうやって上からこんなにもゴミゴミした町並みを見ると、自分が故郷を遠く(でもないか)離れていることを今更のように感じる。