水道検針日記(199Y年11月18日)~あんまり仕事をあれこれ変えちゃだめよ

獅子座流星群が日本上空できれいに観測できるとテレビなどで盛んに言っているものだから、今朝方、3時に起きて(昨夜11時半に就寝)公園にいってその流星を見た。5時近くになって部屋に帰ってそれから9時半までまた就寝。

会社に行くと、話題はやはり流星のことで「ね、流星見た?」と何人かが言っていた。同僚の某氏は、昨夜、街で飲んでいて、飲み屋の中で皆その話題で大いに盛り上がったらしいのだが、酒飲みの常にして、やはり面倒なことはできなくて、さっさと酔いつぶれて他人の家で寝てしまったらしい。酒飲みはやっぱり酒を飲むこと以外できないよ。

今日の現場はN町の団地とK町。合計280件くらい。初めにいつも通りN町から。今日の検針は出勤時間が遅かったため、11時半から開始。

平屋と3階建ての建物が半々あり、比較的検針しやすく、12時45分頃終了。3階建ての方で、いつもは2,3件しかでない「ピー音(4割以上の増減、開始手続きしないまま使用等)」が鳴らないのが、今回は7,8件あった。

しかも1件、空き家でありながら5立方も使用してあって、2立方までなら誤差の範囲で済むのだが、こういうケースは、料金負担者を特定して、請求先を聞き出して、それから開始手続きの用紙にいろいろ書き込みをしなくてはならないので、超めんどくさいんだー。あー、もう思い出しただけでイライラしてくる。

その後、昨日検針した分の再調査を終了させて、K町商店街の一角にある中華料理点で炒飯を食べ(ここの炒飯はけっこう塩辛い)、それから検針を開始。

この冊には、いつもタバコをくれるばあさんがいる家があるのだが、今日は不在。その家の前に、かつて某省庁に勤めていて、かつて昭和天皇を何回か見たことがあり、隣の自分が経営しているアパートに、店子の一人が妹にも風呂などを使わせていたことに憤っていることを話していたばあさんがいる。

そこの家に行くと、門のところに「水道検針の方お入りください」という張り紙が画鋲で留めてあった。これはいつものことだから気にならない。しかし、今日は玄関にも「**さん、どうぞ中に声をおかけください」という張り紙があって、メーターがある庭の隅の木にも同じメモが紐で結わえてあった。

「うーん、これは何だ……」と怪訝に思っていたら、ばあさんが出てきて、「この間はどうもお気を使っていただいてありがとうございました」と前々回に増メモを入れたことを、律義にまだ感謝してくれていた。

それから問題の住人が出ていってくれてスッキリしましたわ、などという話を聞いているうちに、突然「**さん、あなたね、あんまり仕事をあれこれ変えちゃだめよ」と真顔で言われた。

「仕事やってるとね、いろいろ嫌なことがあるでしょうけれどね、我慢しなきゃだめよ。あたしなんかもね、◎◎省で20年も働いていたからね、そりゃぁ辛いこともたくさんありましたよ。でもね、そういう時は美味しいものでも食べてガマンするの。20代、30代というのはそうやって過ぎていくの。50代位にもなるともう楽になりますけどね」

僕はその言葉を聞いてひどくびっくりした。実は、今月はこの検針日記に書いていない様々な事柄でも検針の仕事にかなり疲労を感じていて、憂鬱な気分で仕事をすることが多かったのだ。正直なところ、もう辞めてしまいたい気持ちもある。今日もイライラすることが多かったし。

まるで彼女は、僕の気持ちを見透かしているかのようだ。84才でありながらパソコンを操ってインターネットで僕のホームページを愛読してくれているのだろうか。

僕が「あのー、僕はそんなにツラそうな顔に見えますかね」というと、「ううん、そうじゃないよ。ほら、最近の若い方はあれこれ仕事を変えてしまうでしょ。どこも長続きしないようじゃだめなのよ。それからお金を貯めなさい。ギャンブルなんかやっちゃだめよ」と彼女は言って、キレイな半透明な赤色の石鹸を二つくれた。

これはアパートに住まわせている明治の女子大生にも評判がいいんだそうだ。それから、今度は来年の一月よね、またいらしてね、そのときは声を掛けてくださいね、よいお年をね、と言われてその家を出た。

寂しい老人とはいえ(という言い方も失礼だが)、他人から心配してもらうのは嬉しいものである。なんだか、それからいくらか気分が明るくなった。

会社に帰って同僚にこの話をすると「いいなあ、俺んとこの客はイヤな奴ばっかですよ」と南田くん(仮名)は言っていた。そんなことはないよ。

僕にしても心暖まることより、不快な思いをすることの方が数としては圧倒的に多いし。

それにしても、今日は「ピー音」が鳴ることが多かった。メモに前回水量と今回水量を書いて、さらに「何か変わったことがありましたか」という主旨のメモをポストに投入しなくれはならないんだよなぁ。これがさ、20立方から40へと倍に増えたのならまだしも、17から25とかさ(基本料金は20以下)、けっこうストレスがたまる。