水道検針日記(199Y年11月16日)~公園で遊ぶ母子

ここ2,3日とても暖かい日が続いている。今日は作業服を薄いのと厚いのと二枚重ねて行ったのだが、途中で薄手の青い服一枚にした。

先週は中休みもなく、350件前後の日が続き、金曜は山場の460件があり、キツイ週だった。これを乗り越えれば後はずっと下り坂だと思って頑張った。

僕なんかこれくらいで厳しい、疲れた、休みたいなどと泣き言を言っているが、10年やっているベテランの50才前後の検針員らは、月に6000件ぐらいやっているので、一日平均なんと400件もやっているのだ。

多い日には600件もあるらしい。それで彼(女)らは全然平気らしい。その人たちが、僕などの泣き言派と違う点は、第一に学童期の扶養家族がいるということだ。やっぱり子供を高校や大学に行かせることを考えると、ちょっとやそっとのことでは疲れなくなるのだろうか。

というわけで今週は山場を越えた比較的楽な日が続く週で、非常に嬉しい。今日はまだ300件あったが、明日は160件くらいだ。今日の現場は二冊ともB町。

今日は出勤時間が10時半近かったので、検針を始めたのが11時頃だった。のんびりやって12時40分頃終了。それから近くのモスバーガーハンバーガーを買って、次の現場の近くの公園で昼休みをとった。

なぜかここの冊の日にはモスバーガーを食べたくなる。ちょっと高いけど、マクドナルドなんかよりずっとうまいし、それに二ヵ月に一度のことだし。それで、その公園のベンチに腰掛けて一人で昼食を摂っていたのだが、そこの公園には、今日はどういうわけか小さい子供連れの主婦がたくさんいた。

いつもは一人二人なのに、今日は数えてみたら7人くらいいた。まぁ、ここらみたいな地縁が比較的薄い地域では、同じような境遇の主婦の友達が欲しくて、お母さん達は公園に集まってくるのだろう。それで初めて公園に行く緊張の日を「公園デビュー」と言うのだそうだ。

この「公園デビュー」という言葉を聞いたことがある人はたくさんいるだろうが、実際にその公園でのお母さんたちの、笑顔の影の緊張した表情やどこかぎこちない会話の様子を見聞きしたことがある人は少ないんじゃないだろうか。何の関係もない僕がぼーっとしながら見ていると、公園によってお母さんたちの関係が多少違うみたいだ。

繁華街に近かったり、規模が大きいと、お母さんたちの顔ぶれが変わって流動化が激しく、また、駅から遠い住宅街の小さな公園では大よそメンバーが一定するみたいだ。狭い経験の範囲で僕が見たところ、小さな公園ほどお母さんたちの関係は親密で、多少のぎこちなさはあっても、会話は活発で仲が良い。

大きい公園では、中学高校の女子グループみたいにお母さんたちの間で「仕切る人」と「仕切られる人」の関係ができているらしいところもあれば、お母さん同士の間で会話がほとんどなく、お母さんと子供のペアが各自で世界を作ってブランコや砂場やジャングルジムで「一生懸命」遊んでいるようなところもあって、あんまり居心地が良さそうではない。いじめもあるんじゃないかと想像してしまう。「公園ジプシー」なんて言葉もあるみたいだし。

今日もハンバーガーを食べながらぼんやり聞くともなく聞いた話は、まぁ、しょうもない世間話だったんだけど、暇な時間があるお母さんたちも、それなりに大変なのだろうと思う。旦那さんが仕事から帰って来るまでの間、子供とだけびっちり一緒にいるのも辛いだろうから、近所の公園で気の合う仲間を見つけることができるかは大問題なんだろうなぁ。

それで今書きながら思ったんだけど、小さい子供を抱えた主婦の友達が、同年代の子供を持った女性だけに限られなければならない訳はないんだよね。いろんなイベントに参加して年齢や性別にとらわれずに交流を広げられればいいのに。そこでネックになるのは、やはり異性関係で(子供を持った既婚女性ということで、ここでは異性愛者のみに問題を限定させてもらいます)、どうしても大人の男性とは交流を持ちにくいようだ。

これは、最近、家族関係の本をちょっとかじった僕に言わせると、彼女たちが賃労働の職業を持たない専業主婦であることに要因の一つがあるのだろう。職業を持った子持ちの女性をあまり知らないので比較できないのだが。

現金を家庭に持ってくる夫に対して、家事一般と子供の面倒をみる妻は直接的な金銭の収入はないが、家事・育児などの妻としての務めを果たす限り、彼女の生活は保証される。しかし妻が他の男性と親密になり、夫に「裏切り行為」と判断されて離婚でもされたら、彼女の生活は途端に行き詰まってしまう。(それに、両親の離婚は子供の発育に影を落とすことになるのではないかという不安もあるだろう。)

「愛する家族のために頑張る」という「愛のイデオロギー」が崩壊すると、専業主婦はたちまち経済的に危機に陥る人が多いはずだ。こういうことを書くと、なんだか専業主婦が哀れな存在のように思えてくるかもしれないが、現実は必ずしもそんなことはない筈で、もちろん様々な不満を抱えながらなんとか幸せにやっている人が多いんだろう。

しかし、そんなような経済的な不安感が彼女たちの行動にブレーキをかけている面も否定しきれるものではないだろうし、また、経済的な自由がないばかりに、理不尽な苦痛を強いられる女性だって少なくないのも事実である。インドとか東南アジアなんかわかりやすい例だろうね。

その後、二冊目を3時過ぎに終了。それから大通りりを東に向かい、金曜の分の再調をして4時過ぎに帰社。会社では書類整理をしながら、同僚と「客と怒鳴りあいになったことがあるか」ということが話題になった。

僕は二回ほどある。そういうときは、大体こちらの気分がイライラしてる時なんだよね。あんまり思い出したくない。同僚の某氏は、メーターの場所がわからなくて、庭をうろうろしていて「おい、そこで何やってるんだ!」っと言われると、ドスをきかせて「水道の検針です」と相手の目を見つめながらゆっくり言うみたいで、「そういうときは必ず勝ちますよ。ふふふ」と笑っていた。うーん、それもなあ……。