水道検針日記(199Y年11月6日)~誤検針

今日は今期一番の冷え込みになったようで、風も冷たかった。夏場から昨日まで青い薄い生地の作業着を着ていたのが、今日から「知られざる水厚い生地の服に衣更えした。

これからもっと寒くなっていって、読者の皆さんは、また検針には大変な季節になるかと思うかもしれないが、実はそんなことはなくて、暑いのに比べたら体力消耗が少なくて体にとってはすごく楽なのだ。まぁ、年が明けたらいつ雪が降るかもしれないということで、それが唯一気がかりではあるが……。

ところで、今日の現場はB町とK町。合計350件くらい。B町には夏に92才で亡くなった、一人暮らしをしていたMさんの家がある。

前回と前々回はメーターを見ることができなかったのが、今日行ったら近所に住む息子さんが来ていてブザーを鳴らしたら出てきてくれた。僕が靴を持って家に入って勝手口から外に出て、カニ歩きで隣の家との塀際を歩いて行ったら「そんなとこにあるんですか」と驚いていた。

それで軽く亡くなったMさんのことを話して(寝込むようなことがなくてよかったですね、とか)、僕が何回かMさんと話をしたことがあるというと、「あ、そうですか。寂しかったですからね。……私も仕事で遠くに住んでいて悪いことしました」と言っていた。息子さんは毎日のように線香をあげに来ているようだった。もしかしたら、贖罪の意識のようなものがあるのかもしれないと思った。


そのMさんの少し前に小さな一戸建ての家があって、その家のメーターを検針したら、だだっと中からおばさんが出てきて「ね、今回はどう?」と訊かれた。これはどういうことかというと、前回の時に水量がいつもの5倍ほどの料金になっていて、話を聞くとどうやら僕が誤検針した可能性が高いのだ。

前々回の水量が7、前回が62、今回が27立方。前回分から30くらい引いて、前々回分に足したらちょうどいい数字だ。おばさんの話だと、生活がこの間特に変わったことはないので、そんなに極端に変化するのはおかしいらしい。

それで僕が推測するに、ハンディへの打ち込みを誤ったのではないかと思う。ハンディの数字の並びは以下のようになっていて、

前項 取り消し
次項 ライト
前画面 入力
メニュー 環境 入力

例えば「945」と打つべきところを間違って「915」と4の下の数字の1を打ってしまったことは十分考えられる。7のはずが4、6のはずが3という風にミスをすることはよくある。

他の家なら、30くらいの増減があるとピー音が鳴るのだが、そこの家は、それまでは他の家にいることが多かったのが、前々回の時期あたりから安定して入居し始めたので、それで水量が7でも何ごともなかったのかもしれない。

62ともなると、料金が1万6000円ぐらいにもなったらしく、けっこう痛いだろう。それでおばさんはびっくりして、毎日やっていた洗濯を一日おきにして、シャワーの控えめにするなど、いろいろと節約に励んで、今回の検針の結果を楽しみにしていたらしい。

「もしかしたら前々回に僕が間違って打っちゃったかもしれないんで、そうだとした申し訳ないです」と言うと、彼女は「いいのよぉ、前回は毎日たくさんシャワー使ったから、きっと本当にそれだけ使ったんだと思う。気にしないでね」と笑顔で慰めてくれた。優しい人もいるんだなぁ。

B町の検針を終えると、昨日やったK町の再調査へ。ここで僕は前回大きな誤検針をしてしまっていた。今回、ある飲食関係の店のメーターを見て、数字をハンディに打ち込むと、なんと水量が1078立方にもなっていたのだ。

これは大変な水量で、水道の蛇口を2ヵ月近く目一杯開きっぱなしにしないと出てこない数字だ。料金は64万5000円あまりである。

何回も数字を確認したが、どっからどう見てもそれは変わらない。それで「ものすごい数字になってますけど、何か変わったことは……」と聴取したかったのだが、不在で替わりに増メモを投入。

仕事を終えて家に帰ってきてから、どうしてもそのことが気になっていろいろ考えた。しかし、考えても何がどうなるものでもないので、次第に「本当に自分が見たと思っている1126という数字は、実は126の間違いではないのか」と自分を疑うようになる。

だってそうでもないと説明がつかない。以前、2,3回あったんだけど、メーターを見て数字を機械に打ち込むと通常の何倍もの水量になってしまって、お客さんに聞いてもそんな筈はないと言われると、自分にはどーしても6にしか見えないのだが、これは本当は客観的には5なんじゃないか……という風に辻褄を合わせるように無理矢理考えてしまう。

朝の6時に目が覚めたときも、そのことを思い出して30分ほど考えた。それからまた寝ちゃって少し寝坊したんだけど。

それで今日出勤して、社員さんがいうには、前回、全回転の誤検針をしたらしい。これはどういうことかというと、メーターには3桁のものと4桁のものの2種類があり、それぞれ999と9999が最高の数字でそれを越えるとクルマのメーターと同じように一回転、つまり全回転することになる。

それで前回の数字が本来なら1086なのに86と打ったとすると、ハンディは3桁のメーターが全回転したものと判断して、そのまま通してしまうのだ。それで今回は正しく1164と打つと1078というとんでもない水量が出てきてしまう。

このミスの原因は、本当に86と数字を読んだか、もしくは1086と打ったつもりが、ハンディの画面の切り替わりが完了しないうちに打ったので、下二桁か三桁だけしか打ち込みができなかったかのどちらかだ。

それで、そのお客さんには大変申し訳ないことをした。それで電話で何回も謝っておいた。お客さんは困惑していただけで、特に怒るようなことがなくてよかった。今度、謝罪ながらその店に行こうかなぁ。