水道検針日記(199Y年6月15日)~彼の名はデニス

ここのところずっと雨か曇ったどんよりした天気で、おまけに気温も肌寒いくらいだったのが、今日は比較的爽やかに晴れた。気温は30度近く上がったみたいだ。僕は暑いのは苦手なのだが、それでも梅雨寒が何日も続くと気分がなんとなくすぐれない。

今日の現場はU町2丁目が2冊。合計280件。比較的件数が少ない。うれしい。今日は2冊を一気にやってしまった。

1冊目のところで、住宅を建築中で、5月に「施保中止」になっているのに、開始手続きをしないでそのまま建築業者が使っていた。こういうことはよくある。他にはマンションなんかで、掃除で水を使うとか。掃除業者の中には、使用代金を払いたくないから「うちは他から頼まれただけで水の料金のことなどは知らない。

この仕事の依頼も知り合いの知り合いから受けたので、元の人も知らない」とすっとぼける人もいる。建築現場ではさすがにこういうことはまずない(解体工事では時々ある)。

こういう時はそこで働いている人に連絡先をきいて、会社に帰ってからそこに電話をする。一般家庭なら使用地と料金請求先が同じなので、開始用紙に書き込むのも単純でいいんだけど、建設中のとこはそれが別だから、郵便番号を調べたりとかなんとかで非常に手間がかかる。

だから僕は気分次第というとこもあるが、基本的に調べたりしない。今日は、「仕方ないから電話しようかな」と思っていたけど、会社に戻った頃にはすっかり忘れていた。建築現場や水道工事で働く人は、暑い中泥まみれになって働いていた。

すごく大変だな、と思う。汚れるし、疲れるからね。でも、一方で思うんだけれど、肉体労働には肉体労働の充実感や喜びがあるのだ。世界の大半の地域では、汗水を流す肉体労働よりもオフィスでスマートに働くデスクワークの方が高級というか、かっこいいという感覚がある。

でも、体を一日中使って筋肉を疲労させないと面白くない、机にすわるばかりの仕事なんか大嫌いという人も少なからずいるはずだ。どちらかというと、僕もそういうタイプの一人だ。

2冊目の最後のワンルームマンションを検針してたら、バスタオルをまいた40代半ばの白人男性が出て来て「Did you?」と言ってベルを鳴らす仕種をした。オートロックをあけてもらうために、僕がいろんな部屋のインターホンを鳴らしたのだ。なんとなく誰だったんだろうと気になっていたのだろう。

その人はこのマンションに住む唯一の外国人で、名前をデニスという。僕は検針をするたびに「このデニス某というのは何者なんだろう」と気になっていたのだ。どんな感じの人物かということがわかっただけでもなんとなく嬉しい。イメージよりも冴えない中年の男だった。大きなお世話か。

検針と再調査を終え、2時半過ぎに昼飯を食った。軽くそばが食いたくなって市役所の食堂に行った。それで出てきたそばを食べたらそばとつゆがものすごく冷たい。生暖かいのも気持ち悪いけど、これだけ冷たいと味もよくわからない。

これはセンス云々よりも配慮ややる気の問題だ。こういう競争もなくて、客も「まあ、安いんだから大半のことは大目に見ないとね……」という環境の食堂は、全然進歩や工夫というものがない。働いているのは、パートの主婦で早く仕事を終えて家に帰ることしか考えてない。まずいのはガマンするけどさ。