水道検針日記(199Y年10月15日)~養子に勧誘された話

そうか、8日ぶりの検針日記か。最近、どういうわけか仕事で疲れて、家に帰ってからもグターっとして何もする気にならなかった。前2回は随分長く書いたしね。

7日の分なんか書くのに2時間半もかかった。ちょっと頑張り過ぎて反動が後から来たのだろうか。それと、10月に入って次第に空気が寒くなってきて、なんとなく内省的になったのか、こんなモノを書いている場合なんだろうか……という気分にもなった。今ごろ気づくようなことでもなかろうに。

今日は10月としては異常に暖かく、9月上旬並みの28度くらいまでこちらの気温は上がったそうだ。金沢なんて30度を越えたらしい。やはり温暖化現象は着実に進んでいるのだろうか。毎年、気温が高くて「異常気象」などと言われているが、今の子供たちにしたら、これが当然の気候になるのかもしれない。

今日はちょっと蒸し暑く、台風10号の影響が多少あるのか風があった。朝、ちょっと寝坊して10時半に起きて、おかげで体も頭もさっぱりして11時に出勤。昨日は休みだった。中休みがあるととても助かる。

今日の現場はU町が2冊。合計280件くらい。冊と冊の現場が隣あっているので、5分くらいジュースを飲みながら休みをとっただけで一気にやってしまった。

ここの冊には、夫に先立たれて孤独に暮らす老女がいて、以前、二回程コーヒーをもらってトークをしたことがある。確か去年の12月が初めてで、前回の8月に久しぶりにそのばあさんと話をした。

そのときは、「おとうさん」が死んでしまって寂しいのは相変わらずだが、一時と比べるとだいぶ落ち着いたようなことを言っていた。それで前回聞いた、いかに亡くなったお父さんがいい人か、近隣の人に愛されていたかという話をまた聞いた。

それで話はかわいい孫と全然家に寄りつかない娘たちの悪口になって、突然、老女が僕に「ねぇ、あんた長男?」と聞いた。「いえ、次男ですよ」と答えると「じゃ、あんた、うちの養子になんない?」と言われた。

どこまで本気かちょっと判断がつくかねる部分があったが、実際、養子縁組をすることになったら、遺産相続を巡って親族との激しい口論に巻き込まれるのは間違いないし、第一、そのばあさんの面倒を看るのもイヤなので「いやー、それはちょっとねー」と断っておいた。

彼女はちょっと残念そうにしていた。なんでも新聞配達の青年あたりにも「あんた長男?」と訊くのだそうだ。この話を友人Pにしたら「なんで養子にならねーんだよ!」と言われたが、多分、老女は、子供たちの関心が自分に向けられないことに不満で、「養子をとることにしたから」と子供に揺さ振りをかけて、もっとあたしの面倒をみなさいよ、寂しいんだから遊びにも来なさいよ、とアピールしたいんだろうと思う。

老女が一人で住む家は敷地が30坪弱というところ。一坪200万円としても6000万、税金や分配をしても1000万円は入ってくるんだろうなぁ。しかし、金のモメゴトって本当に嫌だよね。普段は普通の優しい人でも、遺産相続にでもなると平気で酷いこともするんだろう。若くて独り身のときはそうじゃなくても、子供ができると変わるのかな。

ところで、なんで友人Pが僕が養子になる/ならないということにまで口をはさむのか。たとえ僕がビル・ゲイツの養子になっても、あいつには1円だって入ってこないというのに。

一冊目の後半に家族用マンションがあって、そこでは、ドア横のメーターボックスを開けて、メーターの指針を見、「おしらせ」をドアの差込口に入れてまわるんだけど、ある部屋で70くらいの男が、物音がして何事かと思ったのか、ドアを30cmほど開けて僕の方をじっと見ていた。まぁ、こういうことはよくある。

一瞬、その男と目があって「あ、水道検針です」と声を掛けようとしたものの、男の顔があまりにも無表情で、無機質な感じがしたので無視して仕事を続けた。何か言うかなと思ったけど、結局何も言わず、しつこく3分くらいずっと僕の方を見ていた。それだけ。

再調査を終えて、会社に戻り、着替えて外に出たのはまだ4時前だった。空気は生暖かく、湿っぽかった。明日はやはり雨なのかな、と思って西の空を見ると意外に明るく晴れていた。日中はなんとか大丈夫そうだ。明日は少し早めに出勤しよう。それと、台風10号がそれてくれるといいな。