水道検針日記(199Z年1月19日)~検針員の悩み

もう19日か。もうすぐ2月だよ。毎月、月の初めに件数が多くて、徐々に数が減ってきて嬉しい。あと一週間で月末の休みだし。

今日の件数は合計190件。190件なんて木曜日の460件に比べたら言うまでもなく何でもない。あっという間に終わってしまう。それで今日は10時半に起きて11時半に出勤。会社に着くと、検針員はほとんどすでに外に出ていて、僕が最後だった。

現場はB町とK町。最初にB町。ここは110件しかないのだが、メーターが、使われなくなった幅1,5m・長さ10mほどの私道の薮の中にあったり、社宅の駐輪場の鉄板の下に8つ並んでいるたりとちょっとクセがある冊だ。

つい最近まで、老女が入院していたため空家になっていて、(近くに住んでいる親戚の方の同意をとって)毎回塀を乗り越えて検針していた家があったのだが、老女がついに亡くなったのか、前回来たときにはすでに更地になっていて、今日行ったらアパートができていた。

割と立派な構えの家の庭に夏草が生い茂り、いろんなゴミがたまっていくのを見るのは物寂しいものがあった。かといって昔風の日本家屋と庭が潰されて、かわりに敷地の隅いっぱいまで使ってアパートが建てられているのもなんとなく哀しい。そこの家は敷地が100坪はありそうなので、多額の相続税を払う必要があるとかそういう事情があるのかもしれない。

B町のアパートで、前回と同様に空家のはずなのにもかかわらず前回は2トン、今回は5トン水を使っている部屋があった。102号室。ガスメーターのバルブが横になっていて(縦は開栓)、電気メーターが止まっていたのでこれは空家の証拠。

となりの大家のとこに様子を訊きにいくと「あらおかしいわねえ、なんにも使ってないんだけど……」ということなので、漏水がないか再度確認して、やはり異常なし。

「うーん、どうしてだろう」と二人でしばらく考えていたら、廊下の脇に洗濯機が数台置いてあって、101号室の人が102号室の分の蛇口から水を使って洗濯していたことがわかった。

大家は、101号室の人がその蛇口を使うのに同意していたが、使用者は自分じゃないからということで支払拒否。101号室の人は不在だったので、メモをかいて今まで使った5トン分の料金負担の同意をとったりしないといけない。いろいろメンドウくさいので僕はイライラしてしまって「もう、こういうことはちゃんと注意してくださいよー」と言ったら、大家はちょっとビビっていた。前からこの人は水道検針をなめている節があったし、ちょうどいい。

B町を1時半に終了。それからK町の検針へ。ここは80件しかない。あるワンルームアパートで「ピー」音が鳴った。でも、増えた量自体は少ないものだし、インタフォンのないアパートの女性の部屋だったので、こういう場合はまず聴取はしない。ベルを鳴らしてもまず出てこないしね。

でも、今日は部屋の前でメーターを見ているときに20代半ばの女性が出てきたので、「あのー水道検針なんですが……」と聴取した。自分の部屋の前で、突然見知らぬ男に話しかけられるのは、やっぱり恐いようで彼女はとても緊張している。

何やら公共料金関係の職員を装った新手の性犯罪者なのかもしれないと思われても不思議はないもんなぁ。髪は長いし、ヒゲはちょっと伸びてるし、頭にタオルまいてるし。こういうときは、なるべく事務的に手短に話を終わらせるのがいい。

それから木曜に検針した分の再調査を終えて帰社。書類整理などをしながら大垣君(仮名)と話をした。なんでも大垣君は一生水道検針の仕事をするつもりなんだそうだ。「だってこんなに時間がとれて、しかも給料がいい仕事はないでしょう」と彼は言う。

まぁ、確かに大垣君のようなバンドマンにとっては練習する時間がとれないのが何より一番つらいだろうからね。しかし、一方で検針員をしていたら結婚できないんじゃないか、という不安もあると言っていた。

確かに、よく文庫本のカバーの裏にある結婚紹介所みたいなとこに応募しても、収入の面ではねられてほとんど誰も紹介されないだろうしなぁ。かといってバンドマンとして売れるのはあまり期待できないし……。「生涯一検針員」で構わないという、ある意味で達観している彼にもいろいろ悩みがあるのだ。