水道検針日記(199Z年2月19日)~あんたやってくんないかい?

昨日は、五月初旬並みの暖かさだった。風が生暖かくて、本当に春めいていた。2月でこんなに気温が高いと気持ち悪いね。それで今日は一気に10℃近く最高気温が下がった。午前中はそうでもなかったけど、午後になると風がけっこう冷たくて小雨まで降ってきた。

それで僕が自宅アパートに着いた5時近くには雪まで降った。つもったらどうしよう……どうせ降るなら月末の休みになってからがいいんだよなぁ、と思っていたら止んでくれた。よかった。

今日の現場はU町とC町。合計300件ちょっと。最初にU町。ここはコンパクトに狭い地域に住宅が密集している、比較的検針しやすい地域だ。一つ問題なのは、オートロックのワンルームマンションがあることだ。

家族タイプのところだと、誰かが在宅している率が高いし、インタホンを無視することも若者に比べると少ない。しかも、ここは暗証番号は使えなくて、鍵でしか開かないようになっている。仕方ないから、インタホンで片っ端から全部の部屋を呼び出して、それで誰も応答しなかったら、ハンディの情報を見て電話をかける。平日の昼間だから電話しても留守電になっている部屋が大半なんだけど、毎回、必ず快くオートロックを解除してくれる多分20代の女性がいる。非常に助かる。

でも、何度か電話でお願いしてるんだけど、その姿は一度も見たことがない。あれ? 一度見たっけかな。あ、そうだ、ベランダにいるところを目撃して「入り口開けてくださーい」って大声で頼んだことがあったっけ。あんまりキレイな人じゃなかったな。

一年半ぐらい前、101号室から順番にインタホンで呼んでたら、ある部屋の人が出て「なんですか?」と言う。「水道検針なんで……」と僕。「それで、なんで僕をそれで呼ぶの?」「ええ、暗証番号がないところなんで誰かに開けてもらうしかないんですよ」「それじゃ、101号室から順番に呼んでるんだ?」「ええ」「いやらしいことするねえ。それじゃ新聞屋と同じじゃないか」「でも、それならどうやって中に入ればいいんですか」「そんなの俺が知るわけないだろう(笑)。あんたはそれを仕事でやってるんだから」「わかりました。今後、あなたのとこにはかけませんから」ということになった。なんだか腹がたって、そいつの部屋だけ10トン位多く打ち込んでやろうかと思った。

今日は、インタホンで呼び出してたら3階の人がロック解除してくれた。ラッキーだ。

U町の検針を終えて昨日検針した所の再調査。一件、通常の使用量なのだが、メーターがゆっくり回っている家があったので、漏水かと思って昨日に続いてその家に行った。

ブザーを押すと70代の顔に染みがたくさんあるじいさんが出てきた。僕が(耳が遠いらしいのでゆっくり)要件を話すと、それは洗濯機がおかしいからだ、あんた中に入ってみてくれよ、と言われて、本当は靴紐をまた結び直すのが面倒なのでイヤだったんだけど、仕方なく家に上がった。

あまり日が射さない台所兼居間みたいなところに電気ストーブと灯油ストーブがついていて、テーブルの上にはいろんな書類やら請求書やら郵便物が山になっていた。全体に散らかっている様子からすると、明らかに男所帯だ。訊いてみたら独り暮らしとのことだった。

メーターの回転は、じいさんが言う通りに洗濯機から水が少しずつ流れているためで、僕がきつく蛇口を閉めるとメーターは静止した。この原因は、多分蛇口の中のパッキンが摩耗してしているからだと思う。

それで、僕が「水道局がパッキンをくれると思うんで、それをもらってきて修理してください。修理の仕方は、最初にメーターの横にあるバルブを閉めて、蛇口のねじを開けてバラしてパッキンを交換するだけです。簡単ですよ」と云うと、「そりゃ、やり方は言われたらわかるけど、でも、俺そんなこと今までしたことないからできないよ」とじいさんが言う。

近所の人とか、親戚関係でやってくれる人がいないのかと僕が訊くと「いない」と言う。そんなことやってくれるわけない、と。かといって業者に頼むと、出張費だけで1万円ぐらいかかるかもしれないから、馬鹿らしい。だから、じいさんは「あんたやってくんないかい」と僕に言う。

そんなこと言われたって、パッキンは今、手元にないじゃないか。で、彼としては僕がどこかからパッキンを入手して、また改めてこの家に来て修理して欲しいらしい。うーん、そこまで親切はできないんで「約束はできませんが、検討してみます」と言って逃げた。

彼としては、あくまで僕に修理して欲しいみたいで、「俺にゃできないんだよ。やったことないんだから」とぶつぶつ言う。それで僕は「**さん、体もちゃんと動くじゃないですか。人間、何事も初めてということはあるし、『成せばなる、成せねばならぬ何事も』って言うじゃないですか。はっはっは(なんで僕がこのじいさんに説教しなければならんのか……)」と言って自転車に乗ってW町を後にした。

次の検針区域はC町だ。もう町の外れだ。140件しかないから1時間20分で終わった。110件目ぐらいから雨が降り始めた。冷たい風も吹いてきた。でも、これで今週の仕事も終わりだからこのくらい平気だ。

会社に戻ったら、4月から変わる作業服のサイズ合わせをやった。この新たな服は、地域共通のもので、検針会社の者は全員これを着ることになるという。しかし、そのデザインが呆れるほどダサイ。なんでここまでセンスのない服を作れるのかと感心してしまうほどだ。とても友人・知人には見せられない。

地域に何人、水道検針業界の人がいるのか知らないが、この服のデザインを気に入る人はまず一人もいないだろう。参ったな。