水道検針日記(199X年8月12日)~ワタナベヨウコさん

今日はK町とE町。合計350件くらい。K町の方を終わったのは12時20分くらいで、それから月曜にやった再調を済ませて、セブンイレブンで買ったサンドイッチとおにぎりをもって「市民センター」へ。昼休み。

E町は比較的高級な住宅街だ。道路が広くて、クルマや人の通りもあまり多くない。庶民的過ぎるK町とは全然違う。

2ヵ月に1回しか来ないとはいえ、1年以上やっていると、そこに住んでいる人のことが少しずつわかってくることがある。去年の今ごろは元気で、きいてもいないことをべらべら喋っていたばあさんが、今年に入ってから、自力ではほとんど歩くのが難しくなって、1メートル歩くのに30秒くらいかかっていた。

今日、門をあけてもらうためにベルをならしてみたら、返事がなかったから入院したか、もしかしたら亡くなったのかもしれない。

あとは1000ccのバイクの下にメーターがあって、それを引きずってどかしたり(すっげー重かった)、漏水を知らせたら同じ敷地に3つ家があるうちの一つを一人で住んでいるらしいお嬢さんみたいな人が出てきて(玄関に30足くらい靴があった)、玄関に貼ってあるフラメンコのポスターをみたら、このお嬢さんも出演することになっていた。

ケチをつけるつもりはないんだけど、日本人がフラメンコやるのって、なんかヘンというか奇妙な気がする。あと腕にくっきりBCGの痕つけて「オーレッ!」って踊るのかと思うと、それもなんとなくおかしい。

お嬢さんに水道局に電話するよう指示して、隣に行こうとしたらばあさんが出てきてカルピスをくれた。「暑いからね、冷たいものがいいかなって思ったの。でもあんまり甘いと後に残っちゃうから薄くしといたよ」だって。年寄りは気がきく。おいしかった。

最後の方に、線路際のアパートがあって、そこの2階にワタナベヨウコ(仮名)さんというおそらく20代の女性が住んでいる。僕は、この人と会ったことは一度もないのだが、去年、いつもより4割ほど増加している時があって、その頃はまだ、素直で真面目に原因を聴取していた僕は、ワタナベさんに洗濯中の洗濯機を止めてもらって漏水ではないことを確認してから、ドア越しに「何か変わったことありましたか」と訊いてみた。

そしたら、けっこう不機嫌そうに「会社やめて家にいることが多くなったからじゃないですか」と答えた。それ以来、このアパートに来るたびに、ワタナベさんは再就職したのだろうか、元気にやってるだろうか、とちょっと気になる。僕もこの仕事をする以前の2年間、ほとんど無職でいろいろと想うことが多かったから、失業中の人にはなんとなく親近感がある。さすがにノックして「再就職できましたか?」と訊くわけにもいかないけど、ワタナベヨウコさんには元気でやっていてほしい。