水道検針日記(199Y年3月19日)~会社との団体交渉

今日の現場は、えーと、どこだっけ? 確かN町とK町3丁目。合計260件くらい。

N町の方は団地だ。平屋と3階建ての2種類あるのだが、ここはどうやら某大銀行の社宅らしい。しかしその割には30年前に建てられた公団住宅のような造りで、とても某大銀行の社員が住むものとは思えない。やはり、こういう団地には小さい子供を連れた若いお母さんが多い。

ここは、2ヵ月前に雪の後に来たところで、当たり前だけど、雪がないとこんなに仕事が楽なのかと改めて思い知った。その後、役所でカレー(310円)を食べ、K町の検針。確かここにも某大銀行の社宅がある。駅からも遠いし、間取りも狭そうだ。奥さん方も暇そうだ。そんなことはいいか。

 

さて、今日は大きなイベントというか、組合関係で大事な用件があった。会社側との団体交渉である。場所は市民センター。毎年、本社がある某県と組合がある**とで替わりばんこで交渉するらしい。今日の団交の前にすでに、組合は賃金などに関して要求を出しており、ここでは、会社からの回答と、話し合いが行われる。

時間は6時半から。組合側は5時半に市民センターに集まって軽い打ち合わせをした。こちらのメンバーは5人。委員長を始めとする**から4人。男2、女2.委員長は56才くらい、あと演劇をやっている40代前半のおばさんが2人、それとK町のシェアハウスに住むLくん、そして唯一**から来た僕。

会社側からすると、組合の勢力が大きくなって団結して要求を出されるのが恐いので、**以外からの参加があるのは脅威になるらしかった。僕もちょっとだけ、この団交に参加するのは迷ったけれど、会社からのいじめや圧力があったにしろ、結局そんなに大したことはしないはずだろうという読みと、ビビッて腰が引けるのはかっこ悪いという見栄や意地の問題があった。

友達にも他で組合活動をしてひどい脅しを受けたり、地道な活動をしている人もいて、先日その話をきいて勇気がでたのもある。

会社側からは4人参加があった。本社から3人と**営業所の所長。20畳ほどの広さの集会室に長方形の「ロ」の字に囲んだテーブルに座った。相手側はスーツを着た30~50代の男たち、こちら側はジーンズやスラックス、赤いセーターなどのラフな格好で好対照だった。

スーツ姿の男たちと向かい合って座ると緊張する。なんだか威圧されるようだ。僕はこういう交渉は初めてなので、どのように話をすすめていけばいいのかよくわからず、基本的に委員長や演劇おばさんたちが交渉をすすめていく。

組合側の要求は、結果的にほとんど聞きいれられなかった。平場とマンションなどの賃上げ一律3円アップは、ほとんどゼロ。年休もなし。3円アップは無理でも1円はいけるだろうと踏んでいただけにけっこうショックだ。

交渉というのは、なににしろ力と力の勝負なので、弱い組合としては精一杯意見を主張するしかない。組合員なんてせいぜい10人もいないんだから。細かいことは省くけど、要するに、去年、報奨金の額が下げられたことによって実質的賃下げが行われ、今年もほぼ賃上げゼロなのは到底納得できない、会社は不況を理由にしているが、事実として業績は上がっているではないか、ということ。交渉は全部で2時間半かかった。会社はのらりくらりと逃げようとする。

最初、僕は黙っていたが、雰囲気になれると発言をした。会社の利益があがっているのならば、その利益を労働者に分配するのは当然のことだとか。その時思ったんだけど、割と緊張した空気の中でこういう風に発言するのは昔だったらとてもできなかった。言いたくても発言する勇気がなかった。

それがいつからか、周りは全然知らない人ばかりでも自分の意見を言ったり疑問に思ったことを積極的に質問するようになった。それが全然平気に思っている自分にびっくりする。まわりがどうあれ、自分が思ったことを言わずにはおれないのだ。一回の休憩をはさみ、会社側の再回答は26日にでることになった。

その後、5人で駅前の居酒屋「P太郎」で話し合い。みんなから僕の発言が誉められた。なんだか照れる。別に大したことは言ってないのに。会社としては**営業所以外からの参加者の存在が大きいらしい。組合の団体交渉なんて、他のいわゆる普通の会社だったら僕なんかがそんなに出れるものでもないだろうから、今日参加できたのは面白かった。