水道検針日記(199Z年4月2日)~旅行帰りの検針

皆さんこんにちは。3月21日~30日の10日間、香港4泊-中国・広州3泊-マカオ1泊-香港1泊して無事帰ってきました。期待していたよりずっと楽しかったです。食べ物はうまいし、宿で会った人達との交流も面白かったしね。

今回は旅行記を書きますんで、もしよかったら読んでみてください。30日に成田に着いたら、その日の香港も少し肌寒かったけど、日本は当然もっと寒くて、おまけに雨まで降ってるし、風邪ひいててくしゃみがとまらないし、成田エクスプレス以外は1時間先しかないので、仕方なく京成に乗ったりで辛かった。

昨日、検針の仕事がまた始まった。検針は12日ぶりだし、旅行明けだしで仕事イヤだったね。でも、毎月似たようなこと言ってるか? 仕事やらないで、たまに旅行にブラっとでかけてあとは本を読んだり音楽聴いたり、交流して暮らせたらイイのにな~と思わずにいられません。

ところで今月から作業服が変わった。以前にも書いたけど、ほんと~に物凄いデザインなんですよ。だって「機動戦士ガッチャマン」みたいなんだもん。当地に住んでいる方は、濃い青の地に脇と腕に蛍光色っぽい黄色い幅広の線、それと襟の内側が赤のめまいがするような服装の人をみたら同情してあげてください。N.Yに住むデザイナーの友人トモゾウさんが見たらショックで痙攣を起こすかもしれない。危険です。

服の着心地としては、以前のものよりも生地が柔らかくて着やすい。それに自分が着て検針している時は、鏡を見ない限りその姿を見ないから、あんまり気にならないというか、思ったよりも大したことないじゃん、杞憂だったなと思っていたんだけど、仕事が終わって会社に戻るでしょ、それで同僚の姿を見ると「ああ、俺もこんな強烈なの着てるんだ……」って脱力しちゃうんだよね。黄色が明るすぎて目が痛くなるし。

同僚の作業服に対する意見としては、「人権無視」「いじめ」というのを聞いた。一体誰が、この服のデザインをしたんだろう。どういうセンスの人がこんなデザインを考え付くことができたのか。検針会社なんて水道局に対して何にも文句言えないから、だまって戴くしかないからね。検針会社が文句言えないものを検針員がケチつけるなんて身分をわきまえないおこがましい話なんだよ。

ところで今日の現場はH町とK町。合計360件ぐらい。なんだか、まだ旅行の名残が残っているのか、以前のような検針に対する感覚が戻らない。なんだかしっくりこないんだな。検針ってこんなだったっけかな、という。体は勝手にどんどん動くんだけど。

今日は風が強かったものの、天気がよくて暖かい一日だった。Tシャツ姿の人まで見かけた。体を動かしていると少し汗ばんだ。これから暖かくなるにつれて段々仕事がキツクなる。毛虫も出るし。仕事としては夏より冬の方がやりやすいね。

H町が2時間ぐらいで終わって、昨日検針したK町の再調査。それからセブンイレブンでサンドイッチとおにぎりを買って、K町の数ある小さな公園のベンチに座って昼休み。今日は暖かいしね。

それで公園にあった『週刊ビッグコミックスピリッツ』をぱらぱらとめくっていたら、年の頃60代半ばぐらいのおじさんが「おお~い」とニコやかにやってきて僕が座っているのと隣のベンチに腰掛けた。手にはビニールの袋に入った日本酒があった。そのベンチには下に二つ車輪がついたバッグが紐で結わえてあって、ベンチと後ろの花壇の間には雑誌が何冊か積まれていた。

で、おじさんは、その雑誌の中からニヤっと笑って『デラべっぴん』を選び出して「見るぅ?」と僕に訊いた。笑った口元には上顎の方にボロボロの歯が二本だけ残っていた。その顔全体は、かなり深い皺が何十本も走っている。(『デラべっぴん』はコンビニ等で販売中です。どんな雑誌か知りたい方はご自分で確認してね。)

僕は「いやー、でもねぇ、そんなもん見ちゃうと仕事になんないからさ」と丁重に断った。本当に、あんなの見たら、その後の仕事中に悶々としかねないからね。

おじさんは、よく通る低くて太い声で、自分はユンボウ(パワーシャベル)と建設現場の足場組みの専門家で、この世界で40年ぐらい生きてきたこと、ユンボウの仕事は楽なもんだが、解体の時は回りの家まで壊したり、同僚を殺(あや)めてしまう可能性があるので難しく、ただの穴掘りなら本当に簡単なこと、しかし機械の振動が大きいので職業病としてどうしても胃が下がってきておかしくなってしまう、大抵のユンボウ操縦者は胃が悪いこと、ユンボウのメーカーはいくつかあるが、コマツのものが一番操縦が楽で誰でも動かせるが、三菱とあと他の一社のものはある程度ベテランじゃないとうまく扱えない、各社で操作レバーの動かし方が違うので、やりにくいということ等を話してくれた。

それで、おじさんと話をしながら、この人は昼間になんでこんなところにいるんだろう、と思ってたら、「ここにいても警察は何にも言わねえよ。だって何にも悪いことしてねーもん。ここはいいんだよ。これ(と言って親指で都知事選の選挙ポスター掲示板を指す)があるから、道からこっち見えねえだろ、それに風も防いでくれるんだよ」と言うので、やっぱりホームレスみたいだった。

最近は、景気が悪いから、コンビニで万引きしてわざと警察に捉まろうとする人が多いんだそうだ。野宿するよりは雨風がしのげる家の中で三食付きの生活をした方がいいというわけだ。そういう魂胆を警察もわかっているし、実際、留置場もその手の人々で一杯らしいので、万引きぐらいでは逮捕しても泊めてはくれないんだそうだ。そうか、そういう世相なんだ。

そういえば、何年か前に新聞で読んだんだけど、犯罪を何回も犯して長年刑務所で暮らした人は、年をとってから一般社会でいろいろとうまくやっていくのが難しいから、刑務所に入るために、何か人を傷つけたり重大な損害を与えるものではない、手頃な犯罪を犯して、のんびり余生を塀の中で暮らしてるんだそうだ。刑務所が養老院の役割を担ってるんだな。

K町の検針を終えて、会社に戻って、同僚と新しい作業服の話をした。もうみんな諦めて笑ってた。今週は二日働いただけで週末の休みだ。旅行の疲れをゆっくりとろう。来週は中休みがないんで、今から憂鬱だなんて、言ったら普通の会社員の人に怒られるね。