水道検針日記(199Z年4月21日)~ミーティング

昨日はとてもよく晴れた、気持ちのいい春の日だった。検針してる最中は、ボーッとして、難しいことは何にも考える気にならない。日だまりを歩いているだけで、なんとなく気持ちよくなってしまう。帰りに川沿いの公園を通ったんだけど、半袖姿でベンチに座っている人達を何人も見かけた。一昨日が一日中雨で、カッパを着て検針したせいで、ぽかぽか陽気はとても嬉しい。

実は、今日は検針がない空き日だった。それなら完全に休日かというと、そんなことはなくてミーティングがあった。なんでも、これから毎月ミーティングが開かれるらしい。本来なら、最終日の翌日の再調日に行われるはずだが、今月は、最終再調日が26日の月曜になってしまい、大型連休とからむため、今日のような空き日にやることになった。

仕事で疲れているから本当なら昼間で寝ていたいんだけど、僕なんか先月のミーティングは香港・中国旅行で休んだから、続けて休むわけにはいかない。それにしても、みんな休みの日によく来るよなあ。「問題児」のコニーだって眠そうなミック・ジャガーみたいな顔して遅刻しないで、ちゃんと来た。彼は、昨日更衣室に財布入りのウエストバッグを忘れていた。大丈夫か?

ミーティングは、東と西に別れて40~50分くらい行われた。まぁ、内容としては、今すぐに思い出せないようなもので、特に新しい項目はなくて、漏水を発見した時には客の電話番号を聞いてくれとかそういうことだ。今回、ミーティングを迎えるにあたって、いくつか僕には不安なことがあった。

それというのは、最近、社員さんから、使用量がゼロ立方の時はガスメーターまでメモするよう指示が出ているのだが、僕はそれをやらない場合があるのだ。そもそもなぜガスメーターまで見る必要があるかというと、ゼロ立方のときは、メーター故障である疑いがあるからだ。ゼロ立方というのは、0~999リットルまでの水量で、1000リットルが1立方。

ちなみに20立方までが基本料金内の水量。今までは、メーターの針が1リットルも動いていない場合は、不進行というメーター故障の疑いがあるので、ガスメーターの針をチェックしていた。なんでガスメーターかというと、風呂とかお茶を沸かしたりとか、ガスと水は密接に関連している場合が多いからだ。

それが、今月からは1立方に満たないものは、0でも500リットルでも水量に関係なく全てガスメーターを見てこいという。そんなの変でしょ? 0ならともかく、20リットルでも500でも動いていたら不進行じゃないって証明じゃないか。そんなことを社員の人と、中国旅行から帰ってきた後に話し合って(僕以外の検針員は、3月末のミーティングで説明を受けていた)、結局、折り合いがつかなかった。その話をミーティングの場で持ち出されて、「みんなはやっているのに」という風に圧力をかけられたらツラいだろうなと思った。

それに、半年とか1年ぐらい、水量がずっと0立方の家がよくあって、「お宅は使用量がずっとゼロで、それでも基本料金だけはかかっちゃうけどいいですか?」と中止指示をしろと言われる場合が多い。なんでこういうことをするかと言うと、「うっかり」中止を忘れている客がいるといけないからだという。

実際に、なんで教えてくれなかったんだっていう苦情があるらしいし。でもさぁ、もう相手は大人じゃないの。水を止める必要があるんだったら自分で連絡する、そういうもんでしょ? それぐらい他人のせいにしないで自己責任でやるべきだよ。そういうことも以前、ミーティングの場で僕は発言したことがある。そんな文句ばっかり言ってると、今に社員の人たちに煙たがられるんじゃないかって、時々不安になる。

今日、思ったんだけど、何時の間に、僕はこんなに自己主張をするようになったんだろう。学校に行ってる頃は、くだらない規則を押し付ける教師にもちろん不満はあったけど、最初からあきらめて何も言わなかった。下手に文句でも言ったら「ええかっこしい」みたいに周囲からいじめられる可能性もあるし。

でも、大人になって、いろんな場面で僕ははっきり自分の意見を言うようになった。以前にも同じようなことを書いたと思うけど、自分がこんなに意見を人前で言うなんて昔だったら考えられなかったのだ。ある程度年をとって、恥じらいというかはにかみがなくなったというのも大きいんだろう。

まぁ、そうは言っても、検針みたいな公共料金関係の競争が(ほぼ)無い業種でなら自己主張できても、もっと競争が激烈で、コスト削減と売り上げノルマが過酷な会社では、そんなこと簡単にはできない。

僕は、大きな会社について知っているのは、ヤマト運輸だけだけど、そういう会社では、いくら正論であっても、組織の中で一人だけ「無給の残業なんかやってられるか!」なんてとても気軽に言えない。

仮に、ヤマト運輸みたいな会社では、中止指示しろと本部が決めたら、支店長が部下に「水を止めなくていいですかって必ず連絡とれ」、と徹底させるはずだ。個人の疑問とかやりたくないという意志は単なる職務放棄でしかない。それがむしろ一般的な姿なんだよね。

そんな中で、僕がどれだけ「正しい」ことを上司に言えるのか全然自信がない。多分、居酒屋で同僚を相手に愚痴るのがせいぜいだろうな。まぁ、そういう締め付けが嫌だから検針員やってるんだけどさ。